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欧州が原発に戻り始めた理由 AI・データセンター時代の電力問題

2026年9月23日、イタリア上院は原子力エネルギーを再び導入するための法案を81対51、棄権7で最終承認しました。下院では6月4日に可決されており、チェルノブイリ事故後に原子力から撤退したイタリアが、約40年ぶりに制度を作り直すことになります。

ただし、原発の建設が決まったわけではありません。

今回の法律は、政府が今後12カ月以内に原子炉の許認可、安全基準、放射性廃棄物、将来の立地条件などを定めるための法的な枠組みです。具体的な発電所について建設を許可したものではありません。

1987年の国民投票後に原発を閉鎖し、2011年の福島第一原発事故後にも原子力復帰が国民投票で否定された国が、再び原子力を政策の選択肢へ戻した変化は小さくありません。

イタリアだけの動きでもありません。スウェーデンでは2025年から新設原発への政府支援制度が始まり、ポーランドでは2026年3月に同国初の原発について建設許可申請が提出されました。EUも同年3月、2030年代初頭のSMR稼働を目標とする戦略を公表しています。

欧州で原子力の評価が変わった流れには、ロシアのウクライナ侵攻、その後の電力需要の増加、そしてAI・データセンターという複数の要因が重なっています。

目次

原発回帰の最初の理由はAIではなくロシアだった

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州のエネルギー政策を大きく揺さぶりました。

EUは当時、天然ガスの輸入をロシアへ強く依存していました。欧州委員会によると、2021年にはEUのガス輸入の45%をロシア産が占めています。

ロシアがエネルギー供給を政治的な圧力手段として使ったことで、価格だけでなく、必要なときに燃料を確保できるかという問題が表面化しました。

欧州委員会は2022年5月、ロシア産化石燃料への依存を減らすREPowerEUを開始。2025年にはロシア産ガスの比率が12%まで低下し、2026年にはロシア産ガスを段階的にEU市場から排除する規則も発効しています。

REPowerEUは再生可能エネルギー、省エネルギー、調達先の多様化を中心に構成されています。その一方で、電力を長期間安定して供給でき、発電時のCO2排出量が少ない原子力も再評価の対象になりました。

2025年のEUの発電量を見ると、再生可能エネルギーが47.2%で最大。原子力は23.2%を占め、化石燃料の29.6%に次ぐ規模です。原子力は現在もEUの電力供給の約4分の1を担っています。

原子力にも燃料供給の課題があります。EUはロシア産の核燃料や濃縮ウランにも依存してきたため、現在は原子力分野でも供給網の多様化を進めています。

原発をエネルギー安全保障に使う場合でも、核燃料をどこから調達し、どれだけ長期備蓄できるのかまで含めて考える必要があります。

15年間停滞していた先進国の電力需要が再び増えている

エネルギー安全保障に続いて起きているのが、電力需要そのものの変化です。

IEAの「Electricity 2026」によると、先進国では約15年間ほぼ停滞していた電力需要が再び増加局面に入りました。

背景にはEV、ヒートポンプ、空調、製造業、データセンターなどがあります。

EUでは2025年の電力需要が前年比0.9%増加。IEAは2026年から2030年まで、EUの電力需要が年平均2.3%程度増えると予測しています。5年間の増加量は約300TWhです。

欧州は、暖房や自動車、産業で使ってきた化石燃料を電気へ置き換えながら、その電気自体も低炭素化する必要があります。

EVが増えればガソリンの消費は減りますが、充電用の電力は増えます。ガス暖房をヒートポンプへ置き換えても同じです。

電化はエネルギー需要を単純に増やすとは限りません。電気機器の方が効率が高い場合もあります。それでも発電所と送電網から見れば、電力として供給しなければならない量は増えていきます。

そこへ新たな巨大需要として入ってきたのがデータセンターです。

AI・データセンターは新しい巨大需要家になった

IEAによると、世界のデータセンターによる電力消費量は2024年に約415TWhでした。2030年には約945TWhまで増え、現在の2倍を超えると予測されています。

2030年時点では世界全体の電力消費量の3%弱です。AIは、この増加を押し上げる最大の要因とされています。

3%という世界平均だけでは、電力網への負荷を十分に表せません。

データセンターは特定地域へ集中するためです。

IEAによると、一般的なデータセンターは10〜25MW程度なのに対し、AI向けのハイパースケール施設では100MW以上に達するものがあります。最大級では、建設中の施設で約2,000MW、計画段階では約5,000MWの規模も挙げられています。

発電量が国全体では足りていても、施設が立地する地域の送電線や変電所に余裕がなければ接続できません。

日本でも同じ問題が表面化しています。以前の記事「データセンター建設、住民が意見を言えるのはいつか――制度の空白を追う」では、アイルランドでデータセンターの集中によってダブリン圏の系統接続が制約され、新たな接続ルールが作られた事例を紹介しました。

「AI半導体不足はなぜ起きる?メモリ高騰とPC価格への影響」でも触れた通り、AIインフラの制約にはGPUやメモリに加えて電力があります。半導体を確保した後には、発電所、送電線、変電所という物理的なインフラが必要です。

EUの需要増には、データセンターのほか、冷房、ヒートポンプ、EV、産業需要の回復も含まれています。特に建物部門では、データセンター以外の空調やヒートポンプも大きな割合を占めます。

AIは、すでに始まっていた社会の電化に大きな追加需要を重ねています。

データセンターにはkWhだけでなくkWも必要になる

年間に大量の電気を作れることと、必要な瞬間にその電気を供給できることは同じではありません。

電力量はkWhで表します。

電力はkWです。

例えば年間に十分な発電量があったとしても、データセンターが500MWを必要としている時間帯に供給できる電力が300MWしかなければ運転できません。

AIデータセンターは基本的に24時間稼働します。夜になっても計算処理は続き、風が弱い日にも電力が必要です。

太陽光や風力も、広域送電網、蓄電池、水力、需要調整、他の発電設備と組み合わせることでデータセンターへ電力を供給できます。IEA自身も、2035年までに増えるデータセンター向け電力のかなりの部分を再生可能エネルギーが担うと予測しています。

その一方で、原子力には天候に左右されず、大量の低炭素電力を長期間供給できる特性があります。

EUが2026年3月に公表したSMR戦略では、小型モジュール炉について再生可能エネルギーを補完しながら、データセンターのような「新たな大口需要家」へ安定した電力を供給できると明記しました。

AI時代の電力問題では、年間に何TWh作れるかだけでは足りません。

大量のkWhと、必要な時間に確保できるkWの両方が必要になります。

原発が再評価される理由の一つは、この二つを同時に供給しやすいことです。

Googleと原発の22年契約が示したもの

テック企業と原子力の接近は、すでに具体的な契約として現れています。

2026年9月9日、Googleとフィンランドの電力会社Fortumは、ロヴィーサ原子力発電所を対象とする22年間の電力購入契約を発表しました。

契約は最大で同原発の発電容量の50%を対象とし、Fortumがロヴィーサ原発を2050年まで運転するための寿命延長と出力向上への投資を支えます。

同じ日にGoogleは、2027年から2028年にかけてフィンランドのデータセンターなどへ130億ユーロを投資する計画も発表しました。

GoogleとFortumは、新しい原子力、再生可能エネルギー、蓄電・需給調整などについても共同で検討する覚書を結んでいます。

今回の契約では新設炉をゼロから建てるのではなく、既存原発の長期運転と巨大な電力需要家による長期購入を組み合わせています。

原発側には長期的な収入の見通しが生まれ、Google側には長期間の電力調達手段ができます。

AI企業と原子力の接点には、既存炉の延命、出力増強、長期PPA、新設炉への投資など複数の形があります。

欧州が期待するSMRはまだ実績が少ない

EUが力を入れているのがSMR(Small Modular Reactor、小型モジュール炉)です。

従来型の大型原発より出力を小さくし、設備や部品の一部を工場で標準化して生産することで、建設期間やコストの不確実性を減らすことが期待されています。

欧州委員会は2026年3月、欧州初のSMRプロジェクトを2030年代初頭までに稼働させる戦略を発表しました。

2050年時点のEU域内のSMR容量については17GWから53GWという予測を示しています。大型原発の新設や既存炉の延命を含めたEU加盟国の原子力政策には、2050年までに約2410億ユーロの投資が必要との試算です。SMRなどへの追加投資はこの数字とは別に必要になります。

イタリア政府も、過去に閉鎖した大型炉と同じものをそのまま復活させるのではなく、SMRなどの次世代技術を政策の中心に置いています。

SMRにはまだ大きな不確実性があります。

欧州で商業運転の実績を積んだSMRが大量に存在している段階ではありません。規格を標準化し、同じ設計を多数建設して初めて期待されるコスト低下が起きるため、最初の数基はむしろ高価になる可能性があります。

APが紹介した業界推計では、300MW級のSMR1基の建設費は30億〜60億ユーロ。送電網などの追加インフラ費用は含まれていません。

SMRで期待されているコスト低下が実際にどこまで実現するかは、今後の建設実績と工期によって確認されることになります。

AIの電力問題を新設原発だけでは解決できない

原発には時間の問題もあります。

AIデータセンターへの投資は、2020年代後半にすでに進んでいます。

一方、新しい原発は計画、環境評価、立地、資金調達、許認可、建設を経なければ運転できません。

EUが現在目標としているSMRの初号案件も2030年代初頭です。今日計画した原発が、2027年や2028年のデータセンター需要に間に合う可能性は低くなります。

イタリアの法案が分かりやすい例です。

2026年9月に決まったのは建設許可ではなく、これから原発を扱うための法律と規制を整備する段階。放射性廃棄物の恒久処分場もまだなく、具体的な立地が決まれば地域住民との調整も必要になります。

短期的な電力需要には、既存原発の延命、再生可能エネルギー、蓄電池、送電網増強、需要調整など、すでに導入可能な手段の方が早く効く場合があります。

IEAの予測でも、2035年までに増えるデータセンター向け電力は複数の電源で供給されます。追加需要に対する最大の供給源は再生可能エネルギーで、天然ガスや石炭も供給を増やします。原子力も後半にかけて存在感を高める見通しです。

AIの電力需要予測そのものにも幅があります。

IEAが2026年に更新した中央予測では、世界のデータセンター消費電力量は2025年の約485TWhから2030年に約950TWhへほぼ倍増します。

これは2024年約415TWh、2030年約945TWhとしていた2025年版「Energy and AI」の予測とほぼ同じ軌道です。

ただし、投資環境、AIサービスの需要、資金調達、半導体や電力設備などの供給制約によって実際の伸びは変わります。IEAも、設備供給などのボトルネックによって短期的な高成長シナリオの実現可能性が下がっていると指摘しています。

原発建設は数十年間使う設備です。数年先のAI需要予測だけを根拠に投資判断をするには、時間軸の違いも考慮する必要があります。

「原発か再エネか」だけでは電力問題を説明できなくなった

2025年のEUでは、再生可能エネルギーが発電量の47.2%を占めています。

この比率をさらに上げながら、原子力も維持・拡大しようとする国が出ています。

スウェーデン政府は、新規原発について最大約5GWを対象に政府融資や差額決済契約による支援制度を設けました。2026年6月25日には、リングハルスで新原発建設を計画するVideberg Kraft ABについて、スウェーデン政府が60%を取得し、VattenfallとIndustrikraftが各20%を保有することで合意しています。新しい所有構成は2027年に発効する予定です。

EUのSMR戦略も、再生可能エネルギーと原子力を組み合わせる方針を示しています。

電力システムには、発電コスト、供給できる総電力量、CO2排出量、時間帯ごとの供給能力、送電網の容量、燃料調達、建設期間といった複数の条件があります。

安価な太陽光でも夜間の供給には別の設備が必要です。安定して発電できる原発でも、建設費や工期という弱点があります。蓄電池は需給調整に向いていますが、長期間のエネルギーを無制限に蓄えられるわけではありません。

AI・データセンターが加わったことで、この組み合わせを考える必要性がさらに強まりました。

特に問われるのが、**「年間で電気が足りるか」に加えて、「その場所、その時間に必要な電力を出せるか」**です。

AIが原発を復活させたわけではない

イタリアの原子力回帰には、2022年以降に重なった複数の変化があります。

ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障が揺らぎ、脱炭素に伴う電化によって電力需要が増え、その上にAI・データセンターという巨大な新規需要が加わりました。

EU自身がSMR戦略でデータセンターへの安定供給を明記し、Googleがフィンランドの原発と22年間の電力購入契約を結んだことからも、AIインフラと原子力の接点はすでに具体化しています。

AIは欧州の原子力回帰を始めた主因ではありません。その一方で、原子力の電力を長期間確保したい企業を生み、既存炉の延命や新設炉への投資を支える需要の一つになっています。

イタリアが2026年9月に決めたのも、原発建設そのものではなく制度づくりの入り口です。これから規制、立地、資金調達、廃棄物処理などを詰めていかなければなりません。

AIデータセンターが必要とする電力は、それより早く増える可能性があります。

欧州では、再生可能エネルギー、送電網、蓄電池、既存原発、新設原発を組み合わせながら、将来の電力需要に対応する政策が進められています。

AIが加わる前から、エネルギー安全保障と電化をめぐる政策転換は始まっていました。AIはそこへ、数百MW級の施設をどこへ、いつ接続するのかという具体的な課題と、原子力電力を長期間購入する新しい需要家を加えています。

AIデータセンターの増加が欧州の原発回帰の最大の理由ですか?

欧州で原子力が再評価される流れは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻とエネルギー危機、脱炭素に伴う社会の電化などから先に始まりました。

AI・データセンターは、その流れに加わった大規模な電力需要の一つです。EUが2026年のSMR戦略でデータセンターへの安定供給を用途として明記するなど、原子力政策との結びつきは強くなっています。

再生可能エネルギーでAIデータセンターへ電力を供給できますか?

できます。

太陽光や風力を送電網、蓄電池、水力、需要調整などと組み合わせれば、データセンターへ大量の低炭素電力を供給できます。

IEAも、今後増えるデータセンター電力需要の大きな割合を再生可能エネルギーが担うと予測しています。

原子力には天候に左右されにくい大量の低炭素電力を長時間供給できる特性があります。それぞれの電源で建設期間、コスト、柔軟性などの条件が異なるため、複数の電源や設備を組み合わせる形になります。

SMRならAIの電力不足をすぐ解決できますか?

EUが目標としている欧州初のSMR案件の運転開始は2030年代初頭です。現在増えているAIデータセンターの需要に対しては、建設までの時間が長くなります。

SMRには工場生産や標準化によるコスト低下への期待がありますが、欧州で大規模な商業導入実績が確立している段階でもありません。

短期的には再生可能エネルギー、既存原発の延命、蓄電池、送電網増強などが先に供給力を増やす可能性があります。

参考・参照元

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
専門的な話でも、詳しい人だけのものにしないこと。分からないことは分からないままにせず、元の資料まで確認すること。
そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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