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核融合発電は今どこまで進んだ?発電までに残る壁と世界の開発状況

2026年6月27日、中国科学院の研究チームが、重量582トンの核融合炉用超伝導磁石の検収を完了しました。中国は2030年ごろの核融合発電実証を目指しており、米国でも民間企業による発電所の建設計画が進んでいます。

核融合発電は今、どこまで進んでいるのでしょうか。

米国の実験施設では、燃料に照射したレーザーのエネルギーを上回る核融合エネルギーが得られています。高温のプラズマを閉じ込める研究も進み、発電所に必要な磁石や燃料設備の開発が続いています。

一方、2026年10月時点で、核融合による電力を継続的に商用供給している発電所はありません。

核融合反応を起こす技術と、家庭や工場に電気を届ける技術の間には、いくつもの開発段階があります。

目次

核融合発電は今、どこまで実現しているのか

核融合反応そのものは数十年前から実験室で実現しています。近年は、反応から得られるエネルギーを増やす研究や、将来の発電所に必要な設備の開発が進んできました。

核融合発電が実用化されるまでには、次の4つの段階があります。

段階達成する内容2026年10月時点
1. 核融合反応原子核同士を融合させ、エネルギーを発生させる実現済み
2. 反応部分のエネルギー利得核融合で得たエネルギーが、定められた反応への入力を上回るレーザー方式のNIFで達成。重水素・三重水素を使った磁場閉じ込め方式の実験では未達成
3. 正味の発電発電設備全体の消費電力を発電量が上回る未実証
4. 商用発電電力を安定供給し、継続的に運営できる未実現

2段階目のエネルギー利得は、核融合で発生したエネルギーを、反応のために与えたエネルギーで割った数値です。

計算に使う入力エネルギーの範囲は、装置の方式によって異なります。

レーザー方式では、燃料標的に与えたレーザーのエネルギーを基準にします。磁場閉じ込め方式では、プラズマに外部から加えた加熱エネルギーを基準にするのが一般的です。

核融合で発生したエネルギーが、この入力を上回る状態を科学的ブレークイーブンと呼びます。

欧州の核融合実験装置JETでは、1997年に24MWの加熱入力に対して16MWの核融合出力を得た記録があります。この場合のエネルギー利得は約0.67で、重水素と三重水素を実際に使った磁場閉じ込め方式の実験では、科学的ブレークイーブンに達していません。

一方、施設全体が消費する電力より、発電設備から取り出せる電力が多くなる状態が工学的ブレークイーブンです。

核融合反応から得られるエネルギーが入力を上回っても、施設全体で電力を生み出せるとは限りません。

現在の核融合開発では、実験で得られた成果を基に、発電所全体の電力収支を成立させる技術が研究されています。

太陽と地上の核融合炉は何が違うのか

核融合は、軽い原子核同士が結びついて別の原子核になる反応です。反応前後の質量の差に相当するエネルギーが放出されます。

太陽が光と熱を放ち続けられるのも核融合によるものですが、地上の核融合炉では、太陽と異なる燃料や閉じ込め方法を使います。

太陽では、主に水素の原子核である陽子同士が融合する反応が進んでいます。巨大な重力によって内部の物質が高い密度で閉じ込められ、核融合が継続しています。

地上で開発が進む核融合炉の多くは、水素の仲間である重水素と三重水素(トリチウム)を利用します。

この組み合わせは、太陽で主に進む陽子同士の反応より、地上の実験条件で核融合を起こしやすいためです。

重水素と三重水素が融合すると、ヘリウムの原子核と中性子が生まれ、エネルギーが放出されます。

地上には太陽ほどの重力がないため、強力な磁場やレーザーを利用して核融合を起こせる状態を作ります。

なぜ1億度以上の温度が必要なのか

原子核は正の電荷を持つため、互いに近づくと電気的な力で反発します。

核融合を起こすには、この反発を乗り越えられる条件が必要です。そのため、地上の磁場閉じ込め型核融合炉では、1億度を超える高温のプラズマが研究対象となっています。

プラズマとは、原子から電子が離れ、電気を帯びた粒子が自由に動いている状態です。

十分な核融合エネルギーを得るには、温度に加えて、粒子の密度やエネルギーを保つ時間も関係します。

  • 温度:原子核が融合しやすい状態になっているか
  • 密度:反応する原子核が十分に存在するか
  • 閉じ込め時間:反応に必要なエネルギーを十分長く保てるか

これらを組み合わせて核融合の成立を評価する考え方が、ローソン条件です。

例えば、ある実験装置が1億5,000万度に達したとしても、その温度だけで発電実現までの距離を判断することはできません。

プラズマの密度や閉じ込め時間、燃料の種類も関係するため、異なる方式の装置を温度の数字だけで比較しても、核融合の性能を正確には評価できません。

米国NIFが達成したエネルギー利得4.13倍の意味

核融合のエネルギー収支で代表的な成果を挙げたのが、米国ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)です。

NIFは、強力なレーザーを小さな燃料標的に集中させ、燃料を急激に圧縮して核融合反応を起こす慣性閉じ込め方式を研究しています。

2022年12月5日には、標的に与えたレーザーエネルギーを、核融合で発生したエネルギーが初めて上回りました。

さらに2025年4月7日の実験では、記録を更新しています。

測定項目2025年4月7日の実績
燃料標的に照射したレーザーエネルギー2.08MJ
核融合反応で発生したエネルギー8.6MJ
標的利得約4.13倍

MJ(メガジュール)はエネルギーの単位で、1MJは100万ジュールです。

この4.13倍という数字は、核融合反応で発生した8.6MJを、燃料標的に照射したレーザーエネルギー2.08MJで割った値です。

反応部分のエネルギー収支がプラスになったことを示しています。

一方、レーザーを発生させるための設備は、燃料標的に照射するエネルギーよりも多くの電力を消費します。施設を動かすための電力も、4.13倍という計算の対象外です。

NIFは、核兵器の備蓄管理を支える実験や、高エネルギー密度科学の研究を行う施設でもあります。核融合で生まれたエネルギーを電力に変換して送電する設備は備えていません。

実際の発電所では、反応を起こすためのエネルギーに加えて、冷却、燃料供給、制御などに使う電力も必要です。さらに、発生したエネルギーを電気に変換するときにも損失が生じます。

この成果を発電所に応用するには、レーザー装置の効率、反応の繰り返し、エネルギー回収など、別の技術も必要になります。

出典:Lawrence Livermore National Laboratory「National Ignition Facility – 2025」、Lawrence Livermore National Laboratory「Achieving Fusion Ignition」

世界の核融合開発はどの段階にあるのか

核融合発電の開発には、レーザー方式、磁場でプラズマを閉じ込める方式、パルス状にプラズマを圧縮する方式など、複数の方法があります。

磁場閉じ込め方式で広く研究されているのが、トカマクと呼ばれる装置です。ドーナツ形の容器の中で、強力な磁場を使ってプラズマを閉じ込めます。

研究機関が核融合反応の物理を調べる一方、民間企業は発電所の建設や電力販売までを視野に入れています。

2026年10月時点の代表的な取り組みを、装置の役割と達成段階で整理しました。

装置・計画方式・役割確認された段階次の主な目標
米国NIFレーザー方式の核融合実験標的利得4.13倍核融合反応の研究
中国CRAFT核融合炉の部品・設備開発582トンの磁石を完成・検収工学技術の検証
中国BEST超伝導トカマク型実験装置建設段階2030年ごろの発電実証
米国Helion Polarisパルス型の核融合試作機1億5,000万度を達成発電技術の検証
米国Helion Orion電力供給を目指す装置建設段階2028年の電力供給
米国CFS SPARC高磁場トカマク型実証装置建設・組立段階核融合エネルギー利得の実証
米国CFS ARC商用発電所計画設計・開発段階2030年代前半の電力供給
国際ITER燃焼プラズマの実験炉建設段階2039年の重水素・三重水素運転
日本JT-60SA超伝導トカマク型実験装置初プラズマ達成、統合試験運転プラズマ加熱・制御実験

ITERの行にある燃焼プラズマとは、核融合反応で生じたエネルギーが、プラズマ自身の加熱の大部分を担う状態です。外部から与える加熱エネルギーへの依存を減らしながら、核融合を維持することを目指します。

中国CRAFTの巨大磁石とBESTの発電計画

中国科学院は2026年6月30日、核融合炉用の環状磁場(TF)超伝導磁石が、6月27日に検収を完了したと発表しました。

この磁石は、核融合炉の主要部品を開発・試験する施設CRAFTの成果です。

発表された仕様は、全長21メートル、幅12メートル、高さ3.3メートル、総重量582トン。国際核融合実験炉ITERの対応する磁石と比較すると、体積が約1.3倍、蓄積エネルギーが約3倍とされています。

超伝導磁石は、非常に低い温度まで冷却することで電気抵抗を極めて小さくし、大きな電流を流して強力な磁場を発生させる装置です。

核融合炉では、この磁場を利用して高温のプラズマを閉じ込めます。

CRAFTは核融合炉の部品を開発・検証する施設であり、今回完成した磁石も発電設備ではありません。

中国で2030年ごろの発電実証を目指しているのは、別の計画である超伝導トカマク型実験装置BESTです。

中国科学院が2026年1月に紹介した計画では、BESTで正味の核融合エネルギー利得と発電実証を目指しています。

中国の核融合研究では、大型の超伝導磁石を製作する工学技術と、核融合による発電を目指す実験炉の開発が、それぞれ進められています。

出典:中国科学院「核融合炉用超伝導磁石の完成発表」、Chinese Academy of Sciences「China Accelerates Nuclear Fusion Engineering」

Helionの試作機Polarisと発電炉Orion

米国のHelion Energyは、磁場で閉じ込めたプラズマをパルス状に圧縮し、核融合を起こす方式を開発しています。

同社は2026年2月13日、7世代目の試作機Polarisで重水素と三重水素を使った核融合反応を確認し、プラズマ温度が1億5,000万度に達したと発表しました。

一方、Microsoftへの電力供給を目指して建設している装置は、Orionという別の核融合炉です。

HelionはMicrosoftと電力購入契約を結び、2028年の電力供給を計画しています。

2026年6月16日には、Orionについて米国ワシントン州保健局から、放射性物質取扱許可(RML)と放射性物質の大気排出に関する許可(RAEL)を取得したと発表しました。

同社によれば、これらはOrionの建設・運転に必要な許認可の一部です。送電網への接続に関する手続きも進めています。

Helionが目指しているのは、プラズマの膨張に伴う磁場の変化を利用し、電磁誘導によって電気を直接取り出す方式です。

商用運転では重水素とヘリウム3を燃料に使う計画で、核融合反応で生じる荷電粒子のエネルギーを電力として回収する構想です。この燃料の組み合わせは、重水素と三重水素の反応に比べて中性子の発生を抑えられるとされています。

Polarisでの重水素・三重水素の実験は、その技術開発に向けた試験計画の一段階です。

一般的な重水素・三重水素炉で想定される、熱で蒸気を作りタービンを回す方式とは、発電の仕組みが異なります。

Polarisの温度記録は核融合反応に関する成果であり、Orionの発電性能は今後の実証対象です。

出典:Helion「Fusion Energy Milestones」、Helion「Microsoftとの電力購入契約」、Helion「Orionの許認可に関する発表」、Helion「Technology」

CFSの高磁場トカマクと商用発電所ARC

Commonwealth Fusion Systems(CFS)は、強力な磁場を利用するトカマク方式を開発しています。

同社の実証装置SPARCでは、高温超伝導磁石によって強い磁場を作り、比較的小さな装置で核融合のエネルギー利得を実現することを目指しています。

高温超伝導という名称は、従来の超伝導材料よりも高い温度で超伝導状態を維持できるという意味です。実際の装置では極低温への冷却が必要になります。

CFSはSPARCの建設・組立と並行して、商用発電所ARCの設計を進めています。

2026年6月4日には、ARCの物理設計に関する5本の査読付き論文を発表しました。論文では、核融合炉の設計と物理モデルに基づき、400MWの正味電力を継続的に送電する構想について解析しています。

400MWは設計上の目標値であり、稼働中の発電所で測定された電力ではありません。

さらに2026年4月28日、同社はARCを米国の送電網に接続するため、送電網運営機関PJM Interconnectionに接続申請を行ったと発表しました。

申請は、将来の発電所が送電網に接続するために必要な手続きの一つです。接続には、設備の審査や技術的な条件の確認など、さらに複数の工程が必要になります。

CFSの取り組みでは、核融合反応の実証装置SPARCと、商用電力を供給するためのARCが別々の開発段階に置かれています。

出典:CFS「ARC Physics Basis Papers」、CFS「PJM Interconnection Application」

ITERの役割と2039年の運転計画

フランスで建設中のITERは、日本、欧州、中国、米国、韓国、インド、ロシアが参加する国際共同プロジェクトです。

ITERの目的は、大規模な核融合反応を安定して維持し、将来の発電所に必要な科学的・工学的知識を得ることです。

設計上は、プラズマの外部加熱に投入する50MWに対して、500MWの核融合出力を得ることを目指しています。

これはプラズマのエネルギー利得10倍に相当します。

ITERには、核融合反応で発生した熱を商用電力に変換する設備は組み込まれていません。実験で発生する熱は、冷却水系統によって取り除く設計です。

2024年に見直された計画では、2034年の研究運転開始と、2039年の重水素・三重水素による核融合運転開始が示されました。

ITERでは、核融合反応の維持に加えて、材料、燃料の増殖、冷却、装置の保守に関係する技術も研究します。

将来の発電所で必要になる条件を、大型の実験装置で確かめるための計画です。

出典:ITER「What will ITER do?」、ITER「ITER in a Few Lines」、ITER「Cooling Water」

核融合炉を発電所にするために残された技術

核融合反応で十分なエネルギーが得られても、その状態を維持し、燃料を供給し、発生したエネルギーを電力に変換する設備が必要です。

米国エネルギー省(DOE)は2026年6月、2025年10月に初版を公表した核融合の科学技術ロードマップの更新版を公表しました。

このロードマップでは、商用化に向けた技術課題を次の6領域に整理しています。

  • 構造材料
  • プラズマに接する部品
  • 核融合プラズマの閉じ込め方式
  • 燃料循環と三重水素の処理
  • ブランケット
  • 発電所全体の設備統合

ロードマップは定期的に更新する文書と位置づけられており、技術開発の進展に合わせて目標や評価内容が見直されます。

高温プラズマを安定して維持する

核融合炉では、極めて高温のプラズマを制御しながら、十分な核融合エネルギーを継続して発生させる必要があります。

磁場閉じ込め方式では、プラズマの状態が不安定になるとエネルギーが失われ、核融合反応を維持しにくくなります。

そこで、プラズマへの加熱、磁場の制御、燃料粒子の供給、不要な粒子の排出などを組み合わせます。

将来の発電所では、必要な出力を維持しながら、長時間の運転や繰り返し運転に対応しなければなりません。

温度・密度・閉じ込め時間に加え、それらの条件を発電に必要な時間だけ安定して保てるかが、発電所としての運転性能を左右します。

炉の材料と中性子への耐久性

核融合炉の内部には、高い熱負荷と高エネルギーの中性子に耐えられる材料が必要です。

重水素と三重水素による核融合では、発生するエネルギーの多くを中性子が運びます。

中性子は電荷を持たないため、プラズマ中の荷電粒子のように磁場で閉じ込めることができず、周囲の材料に到達します。

その結果、材料内部の原子が移動して構造が変化したり、材料が放射化したりする問題が生じます。

ITERでは、2024年に提案された新しい計画で、プラズマに面する第一壁の材料をベリリウムからタングステンへ変更する方針が示されました。

材料の耐久性は、炉の寿命や部品交換の頻度にも影響します。

発電所として長期間運転するには、損傷した部品を遠隔操作で交換する方法や、交換作業中の停止時間を短くする設計も必要です。

出典:ITER「New Baseline to Prioritize Robust Start to Exploitation」

三重水素の確保とブランケット

核融合炉の燃料にも、解決すべき課題があります。

重水素は水に含まれるため比較的入手しやすい一方、三重水素は放射性物質であり、自然界に大量に存在するわけではありません。

そのため、将来の重水素・三重水素炉では、核融合反応で発生した中性子をリチウムに当て、新たな三重水素を生産する方法が検討されています。

この役割を担うのが、炉の内側に配置されるブランケットです。

ブランケットには、主に二つの役割があります。

一つは、核融合反応で発生した中性子のエネルギーを熱として回収することです。回収した熱を冷却材で運び、蒸気タービンなどの発電設備に利用する構想があります。

もう一つが、リチウムを利用した三重水素の生産です。

ブランケットは、核融合で発生したエネルギーを取り出しながら、次の核融合反応に必要な燃料も生産する設備です。

燃料生産の性能を評価する指標の一つに、三重水素増殖比(TBR)があります。

これは、消費する三重水素の量に対して、新たに生産できる三重水素の量を示す割合です。

米国DOEの2026年ロードマップでは、短期的な技術目標として、将来の核融合発電所を想定した燃料循環の設計で、TBRを1.1より大きく設定することが挙げられています。

これは設計上の目標値であり、実際の発電所で達成された数値ではありません。

三重水素は生産するだけでなく、回収、分離、精製、貯蔵して、再び炉に供給する必要があります。

また、ブランケット自体も高い熱負荷と中性子照射を受けるため、冷却性能や材料の耐久性が求められます。

核融合炉が長期間動くには、燃料の生産と回収、熱の取り出し、設備の保守を同じ炉の中で成立させなければなりません。

出典:米国DOE「Fusion Science and Technology Roadmap」(p.51、p.86)、ITER「Tritium Breeding」、ITER「What Will the Blanket Teach Us?」

日本の核融合発電はどこまで進んでいるのか

日本では、国立研究機関によるプラズマ実験、ITERへの国際協力、将来の発電実証に向けた政策整備が進んでいます。

中心的な研究設備の一つが、茨城県那珂市にあるJT-60SAです。

JT-60SAは、日本と欧州が共同で建設した超伝導トカマク型の実験装置で、2023年10月に初プラズマを達成しました。

2026年3月13日には、量子科学技術研究開発機構(QST)が、プラズマ加熱実験に向けた統合試験運転の開始を発表しています。試験運転自体は、同年2月27日に始まりました。

この運転では、新たに設置したプラズマ制御コイルの通電試験などを進め、装置全体の機能を確認します。

QSTは2026年内のプラズマ加熱実験開始を目指すと発表しています。将来的には、高温・高圧力のプラズマを制御する技術を研究し、ITERや発電実証を目指す原型炉に役立てる計画です。

JT-60SAは核融合反応の制御技術を研究する設備であり、商用電力を供給する発電所ではありません。

日本の発電実証計画と国の戦略

日本政府は2025年6月、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定しました。

2026年4月8日には、内閣府の有識者会議「核融合戦略」で、「フュージョンエネルギーの社会実装に向けた取組の在り方」が決定されています。

この文書では、将来のフュージョンエネルギー利用に向けた技術開発の課題に加え、発電実証が満たすべき要件、実施主体、費用、立地などについて整理しています。

発電実証では、2030年代に発電システムの基本機能を実証する段階と、その後に商用発電所の建設・運用に必要な技術を確かめる段階が想定されています。

将来の発電システムが技術的に成立する見通しを示すことに加え、商用発電所の建設・運用に必要な知識を蓄積することも求められています。

同年7月には、日本成長戦略本部によるフュージョンエネルギー分野の官民投資ロードマップが策定されました。

これに先立つ7月7日の有識者会議では、官民投資ロードマップ案や発電実証に向けた今後の取り組みが議題となっています。

さらに8月10日には、「フュージョンエネルギーの発電実証プロジェクトに向けたプロセス検討委員会」の第1回会合が開かれました。

会合では、国として推進する共通の要素技術や、国立研究機関などが取り組むべき内容について議論しています。

日本の核融合研究では、JT-60SAのような実験装置による科学的な研究と、将来の発電実証に向けた政策・産業基盤の整備が並行して進んでいます。

出典:QST「JT-60SA統合試験運転の開始」、内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」、内閣府「フュージョンエネルギーの社会実装に向けた取組の在り方」、内閣府「第13回核融合戦略有識者会議」、内閣府「第1回発電実証プロセス検討委員会」

核融合発電の経済性と商用化の条件

核融合による発電が実証された後には、継続的に電力を供給し、事業として運営できるかが課題になります。

発電所の経済性には、設備の建設費、燃料の調達・処理費用、消費電力、部品の交換費用、停止期間などが関係します。

例えば、核融合反応から大きなエネルギーを得られても、部品の交換が頻繁に必要であれば、その間は発電設備を停止しなければなりません。

年間の停止時間が長くなるほど、設備が供給できる電力量は減少します。

また、超伝導磁石や冷却設備、燃料循環システムなどの消費電力が大きければ、核融合反応で発生したエネルギーから外部へ供給できる正味電力も少なくなります。

発電設備を建設するために必要な費用も、最終的な電力価格に影響します。

これらを評価する際には、発電所が生涯にわたり供給する電力量と、建設・運転・保守にかかる総費用を考慮する必要があります。

2026年10月時点では、核融合による商用発電所の長期運転実績がないため、実際の運転データに基づく発電単価は確定していません。

将来の発電単価を示す研究や企業の試算はありますが、その数値は装置の性能や建設費、稼働率などについて置いた条件に左右されます。

核融合による電力供給が実現した後も、既存の電源と競争できる価格で供給できるかについては、実際の設備の建設と運転を通じて評価することになります。

核融合発電は安全で環境に優しいのか

核融合発電は、運転時に化石燃料を燃焼させないため、発電に伴う直接的な二酸化炭素の排出を抑えられる技術です。

現在の一般的な原子力発電所で利用されている核分裂の連鎖反応とも仕組みが異なります。

核融合は、反応を維持するための温度や密度などの条件が崩れると、反応が継続しにくくなります。そのため、核分裂炉で問題となる連鎖反応の暴走とは異なる安全特性を持っています。

一方、重水素・三重水素を使う炉では、放射性物質である三重水素の管理が必要です。

核融合反応で発生する中性子によって炉の材料が放射化するため、交換した部品などの放射性廃棄物も考慮しなければなりません。

発電設備の建設や材料の製造、燃料に関係する工程では、温室効果ガスが排出されます。

核融合発電は、大量の電力を低い温室効果ガス排出量で供給できる可能性がある一方、放射性物質の管理や材料の保守、設備全体の環境負荷についても評価が必要です。

核融合のニュースを判断するための5つの確認項目

核融合研究の成果は、プラズマの温度、反応時間、エネルギー利得、磁場の強さ、装置の大きさなど、さまざまな数字で発表されます。

それぞれの数字は異なる性能を表しているため、発電の実用化までの進捗を判断するには、測定対象と達成した段階を区別する必要があります。

確認する項目は次の5つです。

  1. 何を達成したのか:プラズマの生成、核融合反応、エネルギー利得、実際の発電のどれなのか。
  2. エネルギー利得の計算範囲はどこか:プラズマへの加熱入力なのか、燃料標的へのレーザー入力なのか、施設全体の消費電力なのか。
  3. どの程度の運転を実現したのか:一度の短い実験結果なのか、長時間運転や繰り返し運転の実績なのか。
  4. 電力を取り出したのか:核融合反応でのエネルギー発生と、発電設備からの電力出力を区別する。
  5. 実績か将来の目標か:実験で測定された結果なのか、設計上の計算や事業計画で示された数値なのか。

特に、発電に関するニュースでは、正味の電力を測定した成果なのか、今後その性能を達成する計画なのかによって意味が変わります。

よくある質問

核融合発電はもう成功しているのですか?

核融合反応そのものは実現しており、米国NIFでは燃料標的に照射したレーザーエネルギーを上回る核融合エネルギーも得られています。発電設備全体の消費電力を上回る正味の発電は、2026年10月時点では実証されていません。

核融合発電はいつ実用化されますか?

米国Helionは2028年の電力供給、中国BESTは2030年ごろの発電実証、米国CFSは2030年代前半の商用発電を目標としています。いずれも今後の技術開発や設備建設の成果に左右される計画であり、商用発電の実現時期は確定していません。

核融合発電は無限のエネルギーを作れるのですか?

核融合発電にも燃料や設備が必要なため、無限のエネルギーを生み出せるわけではありません。重水素は比較的豊富ですが、三重水素の確保や再生、炉の材料の維持などには制約があります。

核融合発電と現在の原子力発電は何が違いますか?

現在の一般的な原子力発電所は、重い原子核を分裂させる核分裂反応を利用しています。核融合発電は軽い原子核を結びつける反応を利用し、反応を維持する仕組みや必要な燃料、放射性廃棄物の性質などが異なります。

日本でも核融合発電の研究は進んでいますか?

日本では、日欧共同の実験装置JT-60SAによるプラズマ研究や、ITERへの協力が進んでいます。政府も将来の発電実証に向けた政策や技術開発の体制を整えていますが、国内の商用核融合発電所はまだ運転を開始していません。

参考・参照元

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
専門的な話でも、詳しい人だけのものにしないこと。分からないことは分からないままにせず、元の資料まで確認すること。
そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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