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人と機械をつなぐBMIの歴史|脳で操作する技術はどこまで進んだ?

2024年、Neuralinkが脳にチップを埋め込んだ男性の映像を公開しました。男性は手を動かさず、脳の信号だけでパソコンのカーソルを操作し、チェスをプレイしていました。

脳の信号によるカーソル操作は、2006年にはすでに実現していました。米国のBrainGateという研究で、四肢麻痺の男性が脳に埋め込んだ電極を使ってカーソルを動かし、模擬的な電子メール画面を開いたり、テレビを操作したりしていたのです。

では、この約20年間で何が変わったのでしょうか。

2026年6月、科学誌『Nature Medicine』に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)によって重度の麻痺がある男性が、脳に埋め込んだ装置を自宅で長期間使用した研究が掲載されました。

男性は、脳の信号でコンピューターを操作する技術「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」を使い、家族や同僚と会話したり、パソコンを操作したりしながら、フルタイムの仕事を続けていました。

さらに2026年3月には、中国で手術によって頭部に電極を埋め込む「侵襲型BMI」を使った医療機器が承認されています。

BMIは研究室での機器操作から、自宅での長期利用、さらに特定の用途では医療機器として承認される段階まで進んでいます。

家庭での長期使用はまだ少数の参加者による研究であり、承認された装置にも対象患者や用途の制限があります。

※本記事は2026年10月20日時点で確認できる情報をもとにしています。

目次

脳とコンピューターをつなぐBMIの仕組み

ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface、BMI)は、脳の神経活動を測定し、その情報を使ってコンピューターや機械を操作する技術です。

ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)とも呼ばれ、研究分野では両方の名称が使われています。

私たちが手を動かすとき、脳の運動に関わる領域では神経細胞が活動しています。脊髄損傷などによって脳から筋肉への信号が伝わらなくなっても、脳内には動こうとする際の活動が残っている場合があります。

BMIは、その活動を外部の装置で利用します。

処理の流れは次のとおりです。

  1. 電極で脳の電気活動を測定する。
  2. コンピューターが信号から特徴を取り出す。
  3. 学習済みのモデルが、動作や発話の意図に対応する情報を推定する。
  4. 推定結果をカーソルの移動、文字、音声、機器の操作に変換する。

例えば、カーソルを右へ動かそうとするときの神経活動を繰り返し記録し、そのパターンとカーソルの動きを対応づけて学習させます。

学習が進むと、実際に手を動かせない人でも、手を動かそうとする脳活動からカーソルを操作できる場合があります。

コンピューターは、測定された神経活動と操作との対応関係を学習しています。

近年の発話BMIでも同様に、言葉を発しようとするときの神経活動と文章や音声との関係を、機械学習によって推定しています。

脳の信号を取得する方法には、頭皮に電極を装着する方式と、手術によって脳の表面や内部に電極を配置する方式があります。それぞれ測定できる情報や身体への負担が異なります。

BMIの歴史 50年の研究で何が変わったのか

1970年代 脳の電気信号を通信に使う発想

BMIにつながる研究は、Neuralinkの登場よりはるか以前から行われていました。

1920年代、ドイツの精神科医ハンス・ベルガーは、人間の頭皮から脳の電気活動を記録する研究を進めました。脳波を使った計測技術は、のちのBMI研究の基盤の一つになります。

1969年には、神経科学者Eberhard Fetzが、サルの大脳皮質にある神経細胞の活動を、報酬とフィードバックによって変化させられることを示しました。

サルは神経細胞の活動に応じて報酬を与えられ、特定の神経活動を増やすように学習しました。

この研究は、神経活動を測定するだけでなく、フィードバックによってその活動を調節できることを示した初期の実験です。

1973年には、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJacques Vidalが論文『Toward Direct Brain-Computer Communication』を発表しました。

脳の電気信号を使い、人間とコンピューターが直接情報をやり取りする可能性を論じた研究です。

当時は、脳波に含まれる情報をどのように取り出すか、測定結果をコンピューターでどう処理するかが大きな課題でした。

出典:Vidal, 1973, Toward Direct Brain-Computer Communication

2006年 麻痺した人がカーソルを操作した

BMI研究が大きく進んだ節目の一つが、2006年に『Nature』で発表されたBrainGateの研究です。

研究チームは、四肢麻痺のある男性の運動に関わる大脳皮質(脳の表面を覆う神経組織)に、96個の微小電極を備えた装置を埋め込み、神経活動を記録しました。

その信号をコンピューターで処理することで、男性は手を使わずにカーソルを動かし、模擬的な電子メール画面を開いたり、テレビを操作したりしました。

さらに、義手の開閉や、多関節のロボットアームによる初歩的な動作も行われました。

出典:Hochberg et al., 2006, Nature

麻痺で身体への運動指令が届かなくなっても、脳から直接取得した信号で機器を操作できることが、この研究で確かめられました。

研究室で行われた実験であり、脳信号の記録や解析、装置の調整には研究者や技術者の支援が必要でした。

2012年 ロボットアームで物をつかむ

2012年には、BrainGateの研究チームが、麻痺のある2人の参加者によるロボットアームの操作を『Nature』で報告しました。

画面上のカーソル操作と、実際のロボットアームで物をつかむ動作では、制御する内容が異なります。

ロボットアームでは、腕の位置、移動方向、手先の動きなどを組み合わせる必要があります。

研究では、脳の神経活動を使ってロボットアームを動かし、対象物に手を伸ばしてつかむ動作が行われました。

出典:Hochberg et al., 2012, Nature

脳の信号で操作できる対象は、画面上のカーソルから、現実の物体を扱う装置へと広がりました。

その後の研究では、より複雑な動作の解読や、長期間にわたって安定して使える装置の開発が進められています。

ブレイン・マシン・インターフェースは2026年現在どこまで進んだのか

2026年現在、BMIはパソコンのカーソル操作だけでなく、失われた声の再現や、麻痺した身体の歩行支援にまで応用されています。

2023年には、脳の信号から言葉を読み取り、本人の声に近い合成音声と表情を持つアバターを動かす研究が発表されました。同じ年には、脳と脊髄を電子的につなぎ、脊髄損傷のある男性が立ち、歩き、階段を上ることにも成功しています。

2024年にはNeuralinkが、人間の脳に埋め込んだ無線装置によるコンピューター操作を公開しました。

2026年には、重度の麻痺がある男性がBMIを自宅で3,800時間以上使用し、家族や同僚との会話、パソコン操作、仕事を続けた研究が報告されています。

同じ年、中国では脳の信号によって手袋を動かし、麻痺した手の把握動作を支援する医療機器が承認されました。

主な研究成果と医療機器の実用化状況を整理すると、次のようになります。

技術・研究実証・承認されたこと使用環境・期間段階
BrainGate(2006年)カーソルや外部機器の操作研究環境臨床研究・試験
Neuralink(2024年〜)脳信号によるコンピューター操作参加者による使用臨床試験
音声BMI(2023〜2025年)文章や音声の生成主に研究環境臨床研究・試験
脳と脊髄の接続(2023年)立つ、歩く、階段を上る自宅での使用も報告臨床研究・試験
家庭利用研究(2026年)文章入力、PC操作、就労継続自宅で3,800時間超BrainGate2臨床試験
中国の侵襲型BMI(2026年)麻痺した手の把握動作を支援対象患者・用途を限定医療機器として承認

Neuralinkの脳インプラントとコンピューター操作

2024年1月、Neuralinkは初めて人間への脳インプラントの埋め込みを実施しました。

最初の参加者となったNoland Arbaughは、脊髄損傷による四肢麻痺がありました。

2024年3月には、脳の信号を使ってカーソルを動かし、オンラインチェスをプレイする様子が公開されています。

Neuralinkが開発している装置は、細い糸状の部品に多数の電極を配置し、専用の手術ロボットで脳に埋め込む方式です。取得した信号は無線で外部の装置へ送られます。

従来のBrainGate研究との違いには、埋め込み装置の構成、無線通信、手術方法などがあります。

2024年5月、Neuralinkは最初の参加者について、埋め込んだ糸状の部品の一部が脳から後退したと報告しました。

その結果、神経活動を有効に取得できる電極の数が減り、カーソル操作の性能に影響が出ました。

同社は記録アルゴリズムや操作信号を変換するソフトウェアを調整し、性能を改善したと説明しています。

出典:Neuralink, PRIME Study Progress Update

脳内で装置を長期間安定させることは、臨床試験でも評価が必要な課題です。

2026年のNeuralinkと発話回復のVOICE試験

Neuralinkの開発は、カーソル操作から発話の支援にも広がっています。

同社は、重い発話障害がある人を対象に、脳内インプラント「N1」で神経活動を記録し、文章や音声として出力する「VOICE」という臨床試験を進めています。

対象には、ALSや脳卒中、脊髄損傷などによって話すことが難しくなった人が含まれます。

VOICEは2026年10月時点で臨床試験の段階にあり、承認された医療機器として提供されている製品ではありません。

出典:Neuralink公式「Speech Restoration / VOICE」

Neuralinkの発話研究で公開された実演と、ほかの研究機関が発表した音声BMIとの関係については、Neuralinkが脳信号を「声」に変えるVOICE試験の現在で扱っています。

脳信号から文字と声を再現する

BMIの研究は、コンピューターの操作から、言葉を失った人の意思伝達にも広がっています。

2023年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校などの研究チームは、重度の麻痺によって話せなくなった女性の脳活動から、文字と音声、顔の動きを再現する研究を発表しました。

女性は声を出さずに言葉を発しようとし、研究チームはそのときの脳活動を記録しました。

研究チームは、発話しようとしたときの神経活動から、言葉に対応する情報を推定しました。その結果を文章として表示し、合成音声やアバターの動きにも利用しました。

この研究で報告された文章生成速度の中央値は、毎分78語でした。

一方、語の誤り率の中央値は25%でした。これは、参照する文章と解読結果を比べたとき、語の置換、脱落、挿入を合わせた誤りが、参照文の語数に対して約25%に相当するという意味です。

研究チームは、文章の表示だけでなく、本人が麻痺する前の声をもとにした音声合成や、顔の動きを再現するアバターの制御も実証しました。

出典:Metzger et al., 2023, Nature

2025年には、別の研究で、脳活動から連続的に音声を生成する技術が報告されました。

文章の解読が終わるのを待ってから音声を再生する方式では、会話の途中に遅れが生じます。

この研究では、発話に関係する神経信号を約80ミリ秒ごとに処理し、音声を連続的に生成する方式が使われています。

出典:Littlejohn et al., 2025, Nature Neuroscience

文章をすべて解読してから読み上げるのではなく、発話しようとしている内容に合わせて音声を生成する技術です。

現在の発話BMIが解読しているのは、特定の言葉を発しようとした際の神経活動です。測定された信号と発話内容との関係を学習し、言葉を推定しています。

麻痺した身体を動かす脳と脊髄の接続

BMIには、脳信号を外部の機械に送るだけでなく、身体の神経系に働きかける研究もあります。

2023年、スイスなどの研究チームは、脳と脊髄を電子的につなぐ装置によって、脊髄損傷のある男性1人の歩行を支援した研究を『Nature』に発表しました。

脊髄損傷では、脳から足を動かす指令が脊髄の損傷部位を通過できなくなる場合があります。

研究チームは、頭部に埋め込んだ装置で脳の表面の神経活動を記録し、その信号を脊髄への電気刺激に変換しました。

男性はこの装置を使い、立つ、歩く、階段を上るといった動作を行いました。

出典:Lorach et al., 2023, Nature

装置の安定性は1年以上維持され、家庭での独立使用も報告されています。

リハビリテーション後には、装置を切った状態でも松葉杖を使って歩行できる能力が改善しました。

研究対象は1人で、脊髄損傷のある人全般で同じ効果が得られることまで確認されたものではありません。

2026年 BMIを使いながら自宅で仕事を続ける

2026年6月15日、『Nature Medicine』に、BMIを自宅で長期間利用した研究が発表されました。

研究対象となったのは、ALSによって重度の麻痺と発話障害がある男性で、2023年に臨床試験に参加した時点で45歳でした。

ALSは、身体の筋肉を動かす運動神経が障害され、筋力低下や麻痺が進行する病気です。症状が進むと、話すことや手足を動かすことが難しくなる場合があります。

研究チームは、この男性の発話に関わる大脳皮質に、64個の電極を備えた装置を4つ埋め込みました。

合計256個の電極から得られる神経活動を処理し、発話しようとした言葉や、カーソル操作に関する意図を解読します。

男性は自宅で装置を使い、研究者が立ち会わない状態での長時間使用も実現しました。

研究で報告された主な実績は次のとおりです。

評価項目報告された結果
自宅での使用期間約19か月(研究者が立ち会った時期も含む)
累計使用時間3,800時間超
解読された文章183,060文
解読された単語1,960,163語
平均伝達速度毎分56語
研究者なしでの使用植え込み281日目以降に実現

植え込みから281日目に臨床試験の条件が変更され、訓練を受けた介助者が研究チームなしで装置を着脱できるようになりました。

それ以前は、研究助手が立ち会う週2〜4回のセッションで使用していました。条件変更後は、本人と介助者の都合に合わせて自宅で装置を使えるようになり、1日当たりの平均使用時間も増えました。

男性はBMIを使い、家族、友人、同僚と会話し、メールやテキストメッセージを送り、インターネットを閲覧しました。

発話用の解読機能をキーボード入力として使い、別の機能をマウス操作に利用することで、自分のパソコンを操作しました。

研究では、こうした機能を利用してフルタイムの仕事を継続したことも報告されています。

長期間の使用で、どの程度正確に言葉を伝えられたのか

研究では、男性が解読結果の文章を評価し、正確さを記録していました。

18万3,060文のうち、53.3%は完全に正しく解読され、12.9%は本人による訂正が行われ、26.1%は大部分が正しく解読されていました。

この3つを合わせると約92%になります。

これは文章単位で分類した結果であり、全単語の92%が正しかったという計算ではありません。

研究チームは別に、画面に提示された文を読み上げようとする形式的な評価も実施しています。

12万5,000語の語彙を扱う解読モデルを使用したこの試験では、語の正解率が99.2%と報告されました。

この12万5,000語はモデルが扱う語彙の規模を示すもので、実際に12万5,000語すべてを発話して評価したわけではありません。

日常使用での文章評価と、指定された内容を解読する実験の正解率は、測定している内容が異なります。

また、2023年の別の研究では毎分78語という速度が報告されていますが、参加者、装置、課題、集計方法が異なるため、2026年の平均56語と直接比較して性能の優劣を判断することはできません。

出典:Card et al., 2026, Long-term independent use of an intracortical brain–computer interface for speech and cursor control

20年前のBrainGateと何が変わったのか

2006年のBrainGateでは、脳信号でカーソルや外部機器を操作できることが実証されました。

2026年の研究では、BMIを自宅で長期間使用し、意思伝達とコンピューター操作を継続できたことが報告されています。

両研究を同じ条件で性能比較したものではありませんが、使用環境には次の違いがあります。

項目2006年 BrainGate2026年 Nature Medicine
主な実証内容カーソル・機器操作文章入力・カーソル操作・意思伝達
報告された使用環境研究環境自宅
使用期間研究セッションでの操作約19か月の家庭使用
研究者の立ち会い研究者が関与する実験途中から立ち会いなしの使用を実現
利用者以外の支援研究者・技術者の関与訓練済み介助者による準備

2026年の装置では、神経活動の解読精度を保つための学習モデルや、信号の変化に対応するソフトウェアが導入されました。

研究者なしでの運用には、これらの技術と、介助者による装置の準備を認める臨床試験の条件変更が関わっています。

男性の自宅には研究用のコンピューターが設置され、脳内電極とは頭部を貫通する有線接続でつながっていました。

使用前には、訓練を受けた介助者が機器を接続して起動する必要があり、準備には約20分かかりました。

一度準備が終われば、男性は研究者の介助なしで使用でき、1回の使用が最大19時間に及ぶこともありました。

画面上のボタンの選択には、視線追跡も併用していました。

2006年の実験から約20年が経過し、BMIは長期間の生活利用を支える技術へと進んできました。装置の準備、配線、持ち運びやすさには、まだ改善の余地があります。

中国で承認された侵襲型BMIの医療機器

2026年3月13日、中国の国家薬品監督管理局(NMPA)は、侵襲型BMIを利用した医療機器の承認を発表しました。

承認されたのは、上海の博睿康医療科技(Neuracle)が開発した、手の把握動作を支援するシステムです。

この装置は、頭蓋骨の下、脳を覆う硬膜の外側に電極を配置する方式です。NeuralinkやBrainGateのように、脳の内部へ微小電極を刺す方式とは構造が異なります。

手を動かそうとしたときに生じる脳の電気活動を記録し、コンピューターで解析します。その結果を、空気圧によって動く手袋の制御に利用します。

埋め込み装置には無線での給電と通信が採用されています。

対象は、頸髄損傷によって四肢麻痺がある患者です。

NMPAの発表では、次の条件を満たす患者が対象とされています。

  • 18〜60歳
  • 頸髄のC2〜C6に損傷がある
  • 脊髄損傷の重症度評価がA〜Cに該当する
  • 診断から1年以上が経過している
  • 標準的な治療後、病状が少なくとも6か月安定している
  • 手による把握ができず、上腕には一部の機能が残っている

頸髄とは首の部分を通る脊髄で、C2〜C6は損傷の位置を表します。

A〜Cは脊髄損傷の神経学的な重症度分類で、Aは感覚・運動機能が残っていない完全損傷を意味します。日本の身体障害者手帳の等級とは別の分類です。

承認されたシステムは、こうした患者の手の把握動作を補助することを目的としています。

出典:上海市薬品監督管理局「首款侵入式脑机接口医疗器械获批上市」2026年3月13日

参考:Nature Biotechnology「China approves brain chip to overcome paralysis」2026年4月17日

医療機器としての承認は、研究室での実証とは異なる到達点です。

中国では、BMIによって手の動作を支援する装置が、規制当局の承認を受けた医療機器となりました。

承認されたのは、用途と対象患者の条件が限定された装置です。

頭に装着するBMIと脳内インプラントの違い

頭皮から脳波を測る、手術の要らない非侵襲型のBMIもあります。

頭に装着する脳波ヘッドセットには、測定した脳波をパソコンへ送り、特定の操作に対応する信号などを推定する製品があります。

こうした装置は手術を必要としない一方、頭皮から測定する電気活動には複数の神経活動が重なって含まれます。

目や顔の筋肉の動きなど、脳以外に由来する電気信号の影響も受けます。

一方、BrainGateやNeuralinkで使われる脳内電極は、神経細胞の活動に近い信号を取得します。

方式測定場所特徴
非侵襲型頭皮手術不要。複数の神経活動が重なった信号を測定
脳表型脳の表面や硬膜の周辺脳表面に近い神経活動を測定
脳内型脳の内部個々の神経細胞の活動に近い情報を取得

中国で承認されたBMIは、硬膜の外側に電極を配置する方式です。

脳の内部には電極を刺しませんが、頭蓋骨の下に装置を埋め込むため、手術を必要とする侵襲型に分類されます。

市販の脳波ヘッドセットと医療用の埋め込み型BMIでは、測定できる信号、操作能力、身体への負担が異なります。

Metaは手首の電気信号でAIグラスを操作する

脳に電極を埋め込まず、人間の動作の意図に関連する信号を使ってコンピューターを操作する技術もあります。

Metaは2025年9月、手首に装着する「Meta Neural Band」を付属したAIグラス「Meta Ray-Ban Display」を発表し、同月30日に米国で販売を開始しました。

このリストバンドは、筋電図(Electromyography、EMG)と呼ばれる技術を利用しています。

手や指を動かすと筋肉に電気活動が生じます。その信号を手首のセンサーで検出し、画面の操作に利用します。

Metaは2019年に神経インターフェース企業CTRL-labsを買収し、2021年には手首の電気信号による入力技術を公開していました。その研究が、2025年に一般向けの製品になったのです。

出典:Meta公式発表、2025年9月17日

Meta Neural Bandが測定しているのは、脳の神経活動ではなく、手首の筋肉の電気活動です。

脳から筋肉への信号が届かない重度の麻痺では、この方式で同じ操作信号を取得することは困難です。

一方、手術を必要としない入力技術としては、一般向けの製品化が進んでいます。

BMIの実用化で残された問題

脳内電極は長期間安定して使えるのか

脳内に電極を埋め込む方式では、神経活動をどれだけ長く安定して記録できるかが課題になります。

2026年のNature Medicine研究では、植え込み後19か月を超える期間にわたって、4つの電極装置それぞれで9割を超える電極が神経活動を記録し続けていました。

研究チームは、神経活動を検出できた電極の割合に加え、発話に関係する神経信号が時間とともにどの程度変化したかも分析しました。

発話に関係する活動パターンは、長期間にわたり比較的安定していました。

出典:Card et al., 2026, Nature Medicine — Neural signal stability

一方、Neuralinkの最初の参加者では、埋め込んだ糸状の電極の一部が後退し、記録できる信号が減少しました。

どちらも脳内に電極を配置する研究ですが、装置の構造や埋め込み方法は異なります。

2026年の研究は、1人の参加者について長期間の安定性を示しました。ほかの参加者でも同じ性能を維持できるか、装置ごとに評価していく必要があります。

埋め込み手術の安全性、感染のリスク、装置の交換や故障への対応も、長期使用を考えるうえで残る課題です。

高い精度と毎日の使いやすさ

BMIの論文では、入力速度や認識精度が性能指標として使われます。

実生活では、操作前の準備、信号の再調整、機器の接続、誤認識の訂正なども利用者の負担になります。

2026年の家庭利用研究でも、装置の準備には訓練を受けた介助者が必要でした。

また、長期間の性能を評価するには、測定時点での最高精度に加え、毎日の信号変化にどの程度対応できるかを確認する必要があります。

日本でもBMIの研究は進んでいるのか

日本でも、脳の信号を使って意思伝達を支援する技術が研究されています。

大阪大学大学院医学系研究科の平田雅之研究室では、ALSなどによって意思伝達が難しくなった人を対象に、埋め込み型BMIの開発を進めています。

研究対象の一つは、脳の表面に電極シートを配置し、神経活動を取得して意思伝達に利用する技術です。

同研究室は、ワイヤレスの体内埋め込み型BMIの開発にも取り組んでいます。

2026年6月26日、同講座は、開発を進める埋め込み型BMIについて、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験届が提出され、受理されたと公表しました。

また、大阪大学発のスタートアップJiMEDが、ALS患者向けのワイヤレス埋め込み型BCIの治験準備を進めています。

同年9月15日には、脳表面に電極シートを埋め込み、神経活動から文字入力を行うコミュニケーション支援技術について、年内に臨床試験を開始する予定だと紹介しています。

6月の治験届と9月の文字入力研究については、それぞれの発表を区別する必要があります。研究講座の同じお知らせページに掲載されていますが、同一の試験であることまでは確認できません。

出典:大阪大学 脳機能診断再建学共同研究講座・お知らせ

治験届の受理と、医療機器としての製造販売承認は制度上異なります。

日本の埋め込み型BMI研究も臨床応用に向けて進んでいますが、通常の医療として利用できるかどうかは、装置ごとの承認状況と提供体制によって異なります。

BMIの進歩を判断するための指標

新しいBMIの研究成果が発表されたときには、実現した操作の種類に加えて、利用条件を確認することで実用化の状況が分かります。

判断する項目確認すること
参加者数何人で成果が再現されたか
使用期間数時間の試験か、数か月・数年の利用か
利用環境研究室、自宅、外出先のどこか
必要な支援研究者や介助者による準備・調整が必要か
操作性能何を、どの程度の精度・速度で操作できたか
実用化状況研究実証、臨床試験、規制当局の承認のどの段階か

2026年の家庭利用研究は使用期間と利用環境の点で、中国の医療機器承認は実用化状況の点で、それぞれ異なる成果です。

今後は、複数の利用者で長期的な安全性と操作性能が再現されるか、家庭で使うための準備をどこまで簡単にできるか、装置を必要とする患者に提供できる体制を整えられるかが、実用化の進展を判断する材料になります。

よくある質問(FAQ)

BMIとNeuralinkは同じもの?

BMIは、脳の活動を利用してコンピューターや機械を操作する技術分野の名称です。Neuralinkは、その分野で脳内に埋め込む装置を開発している企業の一つです。

BMIで頭の中の考えをすべて読み取れる?

現在のBMI研究では、特定の動作や発話を試みた際の神経活動を解読する技術が実証されています。あらゆる思考を自由に読み取る技術が確立されたわけではありません。

脳にチップを埋め込まなくてもBMIは使える?

頭皮に電極を装着して脳波を測定する非侵襲型BMIがあります。手術を必要としませんが、測定できる信号や操作能力は埋め込み型とは異なります。

Metaの手首の装置もBMIなの?

Meta Neural Bandは筋肉の電気活動を測定する入力装置であり、脳の活動を直接測定するBMIとは異なります。2025年にAIグラスと組み合わせた製品として米国で発売されています。

BMIで麻痺した手足が動くようになる?

装置の助けで、手足の動作を支援できた例はあります。2023年には脊髄損傷の男性が脳と脊髄をつなぐ装置で歩行し、2026年には中国で、手の把握動作を空気圧の手袋で支援する装置が承認されました。どちらも装置による動作支援であり、麻痺そのものの治癒を意味するものではありません。

日本でもBMIを使った治療を受けられる?

2026年10月時点では、日本の埋め込み型BMIは治験・臨床研究の段階にあり、ここで紹介した装置は通常の治療として提供されていません。大阪大学の研究講座は2026年6月に、埋め込み型BMIの治験届がPMDAに受理されたと公表しています。

参考・参照元

BMIの歴史

発話と身体動作の研究

長期使用・医療機器承認

Metaの神経・筋電インターフェース

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
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そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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