今回確認した事例と研究でAIに移っているのは、説明、練習問題、読み書き試験の採点、所見や指導案の下書きです。最終的な判断と責任は人間が持つという方針を、ニュージーランド教育省も日本の文部科学省も公的な文書に書いています。学習の設計や本人の状況に合わせた支えをAIで代われると示した研究は、今回の資料にはありませんでした。
閉鎖する家庭教師会社が、保護者にAIの活用を勧めた
シドニーを中心に家庭教師事業を運営していたDymocks TutoringとTalent 100は、2026年9月27日(日)を最終営業日として事業を終えました。第3学期の授業は同じ講師で最後まで行い、第4学期への自動継続は止めています。
閉鎖理由について、同社の公式FAQは「市場が変わった」と答えています。多くの生徒にとってAIがごく低い費用で十分な説明を出せるようになり、障壁は「助けを得られるか」から「AIをうまく使えるか」へ移った、という説明です。そのうえで、物価高で家計が苦しい状況では、GeminiやChatGPTのようなAIへ控えめに投資するのが家庭にとってよいと勧めています。
FAQには、人間の講師による指導を続ける手配も書かれています。ニューサウスウェールズ州の高校修了資格HSC(Higher School Certificate)の取得を控えて1対1のオンライン指導を受けている約38人は、閉鎖後も担当講師が各家庭との取り決めで指導を続けます。パラマタ校とオンラインの授業は別会社のUplift Educationが第4学期から同じ建物で引き継ぎ、バーウッドやチャッツウッドなど4拠点の家庭には、別の塾Art of Smartの割引条件が案内されました。書店チェーンのDymocks Booksは別事業で、今回の閉鎖の影響を受けていません。
FAQから読み取れるのは会社側の説明までで、経営の数字は示されていません。「AIが原因で倒産した」と言い切れる材料はなく、確認できるのは、会社自身がAIによる説明の低価格化を撤退理由として挙げた、というところまでです。
教師の仕事はAIにどこまで代替されるのか
教師や家庭教師の仕事は、概念を説明する、練習させる、採点する、成績に責任を持つ、意欲を支える、と中身がかなり違います。たとえば練習問題の丸付けは正解と照らし合わせれば済みますが、成績の最終判断には、その結果に責任を負う人が必要です。AIとの重なり方がこれだけ違うので、以下では業務ごとに並べます。
以下はこの記事での整理です。公的機関の分類ではありません。「根拠の段階」は、実際に運用されている例があるのか、研究段階なのか、制度上の方針として示されているのかを表します。
| 業務 | この記事での分類 | 根拠の段階 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 概念の説明・質問への応答 | 置き換わりやすい | 民間で実運用 | Dymocksの閉鎖FAQ |
| 練習問題とその場のフィードバック | 置き換わりやすい(設計次第) | 研究あり | Harvardの比較実験、K-12の系統的レビュー |
| 文章課題の採点 | AIと人間の共同 | 国の試験で実運用(人間が確認) | NZQAの自動採点 |
| 学年途中の到達度テストの採点 | AIと人間の共同 | 導入初年度で教員から問題の報告 | PPTAの調査 |
| 最終的な評価・成績への責任 | 人間の役割が大きく残る | 制度上の方針 | NZ教育省、文部科学省のガイドライン |
| 学習の設計、AIの使い方の指導 | 人間の役割が大きく残る | 研究と政策文書 | トルコの高校での比較実験、文部科学省資料 |
| 意欲の維持、信頼関係、生活面の支え | 人間の役割が大きく残る | 長期の研究は今回の資料になし | ― |
説明と演習は、AIの得意な形と重なる
AIによる説明は、Dymocksが書いたようにごく低い費用で受けられます。夜中でも同じ質問を何度でも受けられ、理解度に合わせて言い換えることもできます。家庭教師や学習塾の授業のうち、説明と演習が占める割合が大きいほど、生成AIとの機能の重なりも大きくなります。
学校の教師は、説明以外にも学級運営、生活指導、保護者対応、成績の最終判断を抱えています。補習サービスは学校教育より説明と演習の比重が大きいため、生成AIとの機能の重なりも大きいと考えられます。Dymocksの閉鎖は、「説明」に対して払われていた料金が下がった例として読むのが実態に近いです。
ただし、同じ地域では閉鎖後の受け皿としてUplift EducationとArt of Smartの2社が案内されていて、授業を引き継いだUpliftは12〜15人程度の少人数授業を続けると案内しています。人が教える補習の受け皿は、少なくともこの地域ではまだ事業として続いています。
AIチューターの学習効果を調べた研究と、その条件
AIチューターの効果を示した研究の1つが、Harvard大学の物理の授業で行われたランダム化比較試験です(Scientific Reports、2025年6月公開)。2023年秋学期、生命科学系の学生向け入門物理(分析対象194人)で、2週続けて行う2回の授業を題材に、同じ内容をAIチューターで自宅学習した場合と、教室でのアクティブラーニングで学んだ場合を比べました。AIチューター側の学習の伸び(中央値)は教室側の2倍を超え、学習にかけた時間は授業より短い傾向でした。
この結果には条件が付いています。使われたのは汎用のチャットではなく、教員が問題ごとに段階的な解答を事前に書き込み、問題を1つずつ順番に進めるよう作り込んだ専用のAIチューターです。著者らは、AIの誤答を防ぐために解答を事前に与えたこと、専用の学習プラットフォームの開発に数か月かかったことを明記しています。そのうえで、AIチューターがあらゆる場面で教室の授業を上回るとは考えていないこと、対面の授業を置き換えるものとしてではなく、授業の前に基礎を学ばせる使い方を想定していることも書いています。対象は大学生で、小中高生や塾の生徒ではありません。
高校生を対象にした研究では、汎用AIの使い方によって逆の結果も出ています。文部科学省の2026年6月の資料も紹介しているBastaniらの研究(PNAS、2025年)は、トルコの高校生約1,000人の数学の学習を、教科書とノートで学ぶ群、汎用のLLMを使う群、教育向けに調整したLLMを使う群に分けて比べたものです。AIを使える練習中の成績は、汎用LLMの群が教科書の群より48%高かった一方、AIを使わずに受けた試験では教科書の群より17%低い成績でした。教育向けLLMの群は練習中の成績が教科書の群より127%高く、試験では教科書の群とほぼ同じでした。
小中高(K-12)の研究をまとめたレビューもあります。npj Science of Learningに2025年5月に掲載された系統的レビューは、知的チュータリングシステム(学習者の理解度に合わせて出題や助言を変えるソフトウェア)を扱った28件の研究、延べ4,597人の生徒を分析しました。対象は2011〜2024年に発表された研究で、ChatGPTのような生成AIのチューターを主に扱ったレビューではありません。効果は全体として肯定的でしたが、AIを使わないデジタル教材と比べると差が小さくなっていました。研究の半数は介入期間が1週間未満で、新しい道具を使うこと自体による一時的な効果と区別しにくいことも指摘されています。
Dymocksが挙げた「うまく使えるか」という障壁は、これらの研究と同じところを指しています。説明を受けること自体は安くなりましたが、学習の伸びは、AIに答えを出させるのか、考える手順を踏ませるのかという設計で大きく変わります。その設計と、生徒がどう使っているかを見ることは、今のところAIの側では完結していません。
AI採点の実例:ニュージーランドの国の試験
採点では、実際の運用がもう始まっています。ニュージーランド資格庁(NZQA)は2025年から、国の資格制度NCEAの読み書き(Literacy Writing)の評価を、自動採点システム(Automated Text Scoring、ATS)を使って採点しています。ただし使っているモデルは途中で替わっています。2025年5月の回は外部の専門業者に依頼し、2026年5月の回からは、NZQAが自ら開発したモデルで本番の採点をしています。
2025年5月には5万5,000人以上がこの評価を受け、NZQAはAIによる採点と他の工程の改善によって、前年より3.5週間以上早く結果を返しました。導入前には、2024年9月の回の約3万5,000件の答案で大規模な試験運用を行い、十分に信頼できると判断しています。2025年5月の結果は、経験のある人間の採点者が3分の1以上を二重に確認し、特に合否の境界に近い答案を重点的に見ました。AIと人間の採点が一致しなかった場合は、人間の採点を採用しています。
NZQAは、使っているAIは汎用のツールではなく、過去の答案で専用に学習させたものだと説明しています。当時NZQAの最高責任者だったGrant Klinkum氏は、2025年8月の公式寄稿で、AIがNZQAの評価専門職を置き換えることはなく、当面の目的はコスト削減ではなく品質・速さ・一貫性の改善だと書いています。より広い科目への展開は、AIが人間と同等以上の性能を示した場合に限るとも述べています。
2026年8月に公開されたニュージーランド教育研究評議会(NZCER)の独立レビューは、2026年5月の本番採点に使われたNZQAのモデルを評価し、引き続き使える水準だと結論づけました。評価項目ごとの点数がAIと人間で完全に一致したのは約8割(79.6%)、1段階以内のずれまで含めると99.8%です。合計点では84.5%の答案で差が1点以内でした。
数字を読むときの注意
79.6%という数字は、約2割の答案で合否が変わったという意味ではありません。項目ごとの点数が完全に同じだった割合で、1段階のずれまで含めればほぼ全件が収まっています。
また、比較に使われたのは全答案ではありません。AIが自信の低い答案、AIが1点や4点を付けた答案、合否の境界付近の答案など、人間が採点し直すために選ばれた品質保証用のサンプルです。NZCERは、この数字を全答案での性能として扱わないよう注意しています。
NZCERは、性別、民族、社会経済的な指標によるグループ分けでは、AIと人間の一致度に大きな差は見られなかったとしたうえで、継続的な監視も勧めています。
採点の精度と、最終判断を誰が持つか
ニュージーランド教育省は学校向けの指針で、人間の教師が生徒の教育の中心にいて学習に責任を持つことを求めています。採点へのAI利用についても、教師の専門的な判断を支えるものであって置き換えるものではない、と明記しています。
同じ国で、学校側から問題を指摘されたAI採点もあります。7〜10年生向けに導入された到達度評価ツールSMARTについて、中等教員組合PPTAは2026年5月、副校長への調査と聞き取りの結果を公表しました。調査とは別に寄せられた教員の声として、AIが文章の質より量の多さで高い点を付けているように見えるという指摘があり、ある教員は、構成や論拠に明らかな差がある答案に同じ点が付いていたと報告しています。PPTAは、公平性を確かめるための見直し作業が増え、教員の負担は全体として減っていない可能性があると述べ、独立した検証を求めました。これは教員からの報告をまとめたもので、独立した精度検証ではありません。
NZQAのATSとSMARTの違いは、精度の数字に加えて運用の決め方にあります。ATSは1つの評価に絞って専用に学習させ、AIが自信の低い答案や合否の境界付近の答案を人間が採点し直す仕組みを組み込んで運用しています。採点をAIに任せられるかどうかは、どれだけ一致するかと、一致しなかったときに誰が決めるかの2つを分けて考える必要があります。
日本の学校と生成AI:文部科学省の方針
文部科学省のガイドライン(Ver.2.0、2024年12月)は「人間中心の利活用」を柱にしています。生成AIの出力は参考の1つとして扱い、最後は人間が判断して責任を持つこと、学びの専門職としての教師の役割が一層重くなることが書かれています。
2026年6月30日の中央教育審議会の委員会資料によると、生成AIパイロット校は令和6年度の66校から令和7年度は281校(協力校を含む)に増え、令和8年度は149自治体・478校(認定校を含む)が指定されています。校務での活用例として、所見の素案作成(20名以上分)が1か月程度から1週間程度に短くなった例(埼玉県新座市)や、学習指導案の作成が90分から30分程度になった例(東京都八丈町)が紹介されています。
同じ資料は、ガイドラインを学習指導要領の改訂を待たずにVer.2.1へ改訂する案を示しています。検討項目には、教師の役割とAIが担う業務の整理、学習過程を過度に省略してしまう使い方への対応が含まれています。この資料で確認できた範囲では、日本で国の試験の採点にAIを使う計画は示されていません。
分かっていないこと
AIチューターの長期的な効果はまだ分かっていません。K-12のレビューが指摘したように、多くの研究は期間が短く、数か月から数年の単位で学力がどう変わるかは確かめられていません。小中高生が汎用のチャットAIをそのまま使った場合の比較実験は、今回確認した資料ではトルコの1件でした。
AIに考える過程を任せたときの影響も未解決です。練習中の正答率が上がっても、AIなしで解けるようになっているとは限らないことは、トルコの研究で示されています。問題を解くことと理解することの違いは、テレンス・タオが考えるAIと「理解」の問題とも重なります。
NZQAのATSが対象にしているのは、現時点では読み書きの1つの評価です。他の科目へ広げられるかどうか、本記事で確認した資料には結論が出ていません。実技や発表のように文章以外で表現する課題をAIが評価した事例も、今回の資料には含まれていませんでした。
学習意欲への影響は、短期の測定にとどまっています。Harvardの研究では、学生の自己申告による没入感と意欲はAIチューターの群のほうが高かったものの、測定したのは2回の授業での感想です。長く続く意欲や、教える側との信頼関係にAIがどう影響するかは、今回確認した資料からは分かりません。Dymocksの閉鎖についても、AI以外の経営上の事情があったかどうかは公表情報からは判断できません。
保護者と教員が先に決めておけること
塾や家庭教師の費用を見直すなら、何に払っているのかを分けると判断しやすくなります。分からないところの説明と演習が中心なら、AIで代わりが利く部分は大きくなります。学習計画の管理、進み具合の確認、本人がサボりそうなときの声かけに価値を感じているなら、そこをAIで代われると示した資料は、今回確認した範囲にはありません。
子どもにAIを使わせる場合は、答えを出させる使い方と、考えさせる使い方の差が大きく出ます。Dymocksが障壁と呼んだ「うまく使えるか」は、答えを求めるのか、ヒントや確認の質問を求めるのかというLLMへの指示の出し方の問題でもあります。OpenAIは2025年7月に、答えを直接示す代わりに問いかけやヒントで段階的に導く「study mode」をChatGPTに追加しました。発表時点では大学生を想定して作られたもので、OpenAI自身が、システム指示で動かしているため会話によって振る舞いがぶれることがあると書いています。子どもが使う場合、保護者が使われ方を時々確認する手間はなくなりません。
教員が採点や評価にAIを使う場合は、NZQAの運用が参考になります。どの答案を人間が確認するのか、AIと人間の点が食い違ったときにどちらを採るのかを、使い始める前に決めておく方法です。精度の数字が良くても、最終的な点に責任を持つのが誰かは別に決める必要があります。
よくある疑問
ChatGPTは家庭教師の代わりになりますか?
説明、練習問題、質問への応答は、かなりの部分をChatGPTのようなAIで代わりに担えます。ただし、今回確認した研究で効果が高かったのは、教員が問題ごとに作り込んだ専用のAIチューターや、教育向けに調整したAIでした。汎用のChatGPTをそのまま使うと、トルコの高校生の研究のように、練習中の成績は上がってもAIなしの試験で下がる場合があります。
AIは教師より学習効果が高いのですか?
大学の物理の授業では、専用のAIチューターが教室のアクティブラーニングを上回った研究があります。一方、小中高のレビューでは、AIを使わないデジタル教材と比べると差は小さくなっていました。対象・教材・AIの設計で結果が変わるため、「AIのほうが教師より優れている」と一般化できる根拠はありません。
AIに採点を任せても大丈夫ですか?
ニュージーランドでは国の読み書き試験をAIで採点していますが、AIが自信の低い答案や合否の境界に近い答案などを人間が採点し直す仕組みと組み合わせています。一方、学年途中の到達度評価ツールでは、文章の長さで点が上がるように見えるといった問題が教員から報告されています。完全な自動化とは分けて考える必要があります。
AIで教師の仕事はなくなりますか?
今回確認した事例で進んでいるのは、説明、練習、採点補助、校務の文書作成といった個別の業務です。ニュージーランド教育省は、学校でAIを採点に使う場合も教師の専門的な判断を置き換えないとしています。日本の文部科学省も、生成AIの出力は参考の1つとして扱い、最後は人間が判断して責任を持つという方針を示しています。
AIがあれば塾はいらなくなりますか?
分からないところの説明や演習が中心の部分は、AIで代わりが利く範囲が広がっています。Dymocks Tutoringも、AIによる説明の低価格化を閉鎖理由に挙げました。一方、閉鎖した拠点の授業は別の塾が引き継ぎ、少人数授業を続けています。学習計画の管理や声かけをAIで代われると示した資料は、今回確認した範囲にはありません。
子どもにChatGPTを使わせてよいのは何歳からですか?
ニュージーランド教育省の指針(2026年5月更新)は、ChatGPTの利用には13歳以上であること、18歳未満は保護者の許可が必要なことを挙げています。利用条件はサービスごとに違い、変わることもあるため、使う前に各サービスの利用規約を確認してください。
参考・参照元
- Dymocks Tutoring「Closure — Questions and Answers」
- Uplift Education「Dymocks Tutoring Parramatta & Talent 100」
- NZQA「AI marking for Literacy Writing assessments」
- NZQA「Embracing AI in student assessments」(2025年8月27日)
- NZQA「How we mark co-requisite assessments」
- NZQA 情報公開請求への回答「AI Marking」(2025年9月3日)
- NZCER「NZQA Automated Text Scoring (ATS) review」(2026年8月)
- New Zealand Ministry of Education「Generative AI」
- PPTA「SMART tool not ready, creates more concerns than solutions – Deputy Principals’ feedback」
- Kestin, G. et al.「AI tutoring outperforms in-class active learning」Scientific Reports 15, 17458(2025)
- Bastani, H. et al.「Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics」PNAS 122(26)(2025)
- Létourneau, A. et al.「A systematic review of AI-driven intelligent tutoring systems (ITS) in K-12 education」npj Science of Learning 10, 29(2025)
- 文部科学省「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組と今後の方向性」(中央教育審議会 デジタル学習基盤特別委員会 資料1、2026年6月30日)
- 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」
- OpenAI「Introducing study mode」(2025年7月29日)
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