2026年5月、「CIAが23andMeやAncestryの遺伝子データを使い、地球外生命体に由来するDNAを持つ人間を探している」という主張が複数のメディアで報じられました。
話の中にはCIA、消費者向けDNA検査、米軍のリモートビューイング、地球外生命体と人間の子孫、さらに「エイリアンによる遺伝子操作」を扱った研究まで登場します。
かなり突飛な話です。
ただ、構成要素を一つずつ調べると、米政府がリモートビューイングを研究していたことは事実で、記事に登場する人物の一部にも政府機関や軍との実際の関係があります。
では、それらの事実をつなぐと、本当に「CIAがDNA検査サイトを使ってエイリアン由来DNAを探している」という話になるのでしょうか。
報道、CIA公開資料、企業の透明性報告、研究文書を分けて確認します。
話の出どころはVICEではない
この話を2026年5月28日に報じたVICEの記事の見出しは、「A Whistleblower Claims the CIA Is Searching DNA Sites for Alien-Human Hybrids」です。
CIAによる活動を事実として確認した記事ではなく、「内部告発者がそう主張している」という形になっています。
VICEが最初に報じたわけでもありません。
New York Postは5月26日、Jason Reza Jorjaniの発言をもとに、23andMeやAncestryを使って地球外生命体由来とされるDNAを探していたという主張を報じています。同じ時期にNewsNationなど複数の媒体でも取り上げられました。
話そのものの出発点は、哲学者・作家のJason Reza Jorjaniがポッドキャスト「American Alchemy」で語った内容です。
複数の報道によると、Jorjaniは米陸軍退役軍人Lyn Buchananから聞いた話として、この主張を紹介しています。
さらにBuchananから聞いた内容として、元CIA関係者Christopher C. “Kit” Greenが23andMeやAncestryへアクセスする手段を設け、特定の遺伝的特徴を検索できるようにした、という話が続きます。
情報の流れは、
Jorjaniが、Buchananから聞いた内容として、Greenの関与について語った
というものです。
報道記事の中では、この主張を裏付けるCIA内部文書やシステム資料などは示されていません。
また、本記事ではAmerican Alchemyの該当回の音声そのものは確認できていないため、Jorjaniの発言内容についてはVICE、New York Postなどの報道をもとに扱います。
CIAがリモートビューイングを研究していたのは事実
米政府が超感覚的知覚を情報収集に使えるか研究していたことには、公的な記録があります。
CIAの説明によると、CIA自身がリモートビューイング研究を始めたのは1972年夏で、1977年に研究を終了。その後、計画はDIA(国防情報局)へ引き継がれました。
その後、米陸軍やDIAなどが関与する複数の名称の計画が続きます。
現在CIAの電子閲覧室に多数残っている「GRILL FLAME」文書も、その時期の軍・DIA側の活動に属するものです。
1979年11月に始まったイラン米大使館人質事件でも、1979〜1980年にリモートビューイングが試されています。
CIA公開のGRILL FLAME文書には、テヘランの米大使館で起きた人質事件に関する情報を得るために行われたセッションが残っており、得られた内容は「raw intelligence data」、つまり未評価の情報として依頼側へ渡されていました。
結果はかなりばらついていました。
CIA閲覧室に残る人質事件関連の評価文書では、GRILL FLAMEによる202件の報告を、解放後の人質への聞き取りなどと照合しています。
その評価では、実際の場所や状況と確実に一致したとされたものが7件、部分的に一致している可能性があるものが約59件、完全な誤りと評価されたものが112件でした。
この記録は、「まったく当たらなかった」と単純に切ることも、「諜報技術として有効だった」と評価することも難しい結果です。
1990年代半ばになると、DIAから計画そのものがCIAへ戻され、CIAは独立評価を条件に再検討しました。
American Institutes for Researchによる1995年の評価を受け、CIAは、一部の実験結果には偶然だけでは説明しにくいものが存在する一方、結果が不安定で一貫せず、情報活動に利用するには信頼性が足りないと判断しています。
CIAは計画を復活させませんでした。
「米政府がリモートビューイングを研究していた」という部分には、公文書による裏付けがあります。
Lyn Buchananは米陸軍のリモートビューイング部隊にいた
Lyn Buchananも実在する人物です。
International Remote Viewing Association(IRVA)がまとめたSTAR GATE関連資料では、Buchananは1984年4月から1991年12月まで米軍のリモートビューイング部隊に所属した人物として記録されています。
IRVA自身も、Buchananを元米陸軍のremote viewerおよびtrainerとして紹介しています。
VICEはBuchananについて、陸軍退役軍人で「CIAのremote viewing programでpsychic spyとして働いたと主張している人物」という趣旨で紹介しています。
一方、確認できる所属は米陸軍側のリモートビューイング部隊です。
米政府のリモートビューイング研究にはCIA、DIA、米陸軍などが時期によって関係しているため、計画全体を「CIAの超能力研究」と呼ぶ報道もありますが、Buchanan自身の所属とは分けたほうが正確です。
Christopher C. “Kit” Greenについて確認できること
この話では、Christopher C. “Kit” Greenという人物の名前が登場します。
公開されている経歴紹介では、Greenは1969年から1985年までCIAに勤務し、生命科学分野などの分析に携わった人物とされています。
リモートビューイング研究が行われていた時期とCIA在籍期間が重なる人物です。
一方、「Greenが23andMeやAncestryへ秘密のバックドアを作った」という部分は、JorjaniがBuchananから聞いた話として報道されています。
Green本人がこの主張を認めた、あるいは同じ内容を公に説明したという情報は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
23andMeは2006年、AncestryDNAは2012年にサービスを開始しています。GreenのCIA在籍期間とは大きく離れています。
もちろん、それだけで後年の関与を否定できるわけではありません。
ただし、関与を示す文書や技術資料がなければ、CIA勤務歴とDNAサービスへの秘密アクセスを同じ事実として扱うこともできません。
23andMeへの秘密アクセスを示す資料は確認できない
23andMeは現在、23andMe Research Instituteとして透明性報告を公開しています。
2026年4月30日更新の報告によると、2015年の報告開始以降、米国内から受けたデータ要求は累計13件、対象となったユーザーまたはアカウントは17件です。
そのうち実際に提供したアカウントデータは0件とされています。
同社はTrust Centerでも、法執行機関、保険会社、公的データベースへ自発的に個人データを提供しないと説明しています。
つまり「政府から一度も要求を受けていない」のではありません。
要求は受けていますが、2026年4月30日時点の透明性報告では提供実績が0件です。
これは通常の政府・法執行機関からの要求について公開された情報です。
Jorjani経由で語られている「秘密のバックドア」が存在しないことを、この数字だけで証明することはできません。
逆に、秘密アクセスが実際に存在すると示す内部文書、システム記録、契約書、ソースコードなども、今回確認した公開資料からは見つかりませんでした。
AncestryではDNA以外のデータ提供実績がある
Ancestryが2026年2月27日に公開した2025年の透明性報告も確認できます。
2025年に受けた顧客DNAデータへの有効なアクセス要求は0件でした。
一方、DNA以外の顧客データについては、米国内で有効な法執行機関からの要求を9件受け、そのうち7件でデータを提供しています。対象となったのは、クレジットカード不正、詐欺、なりすましなどの刑事捜査でした。
また、2025年12月31日までに、米国または他国の国家安全保障法に基づく機密要求を受けたことはなく、National Security LetterやFISAに基づく要求も受けていないとしています。
したがって、
「Ancestryは政府へ一切データを渡していない」
という説明も正確ではありません。
DNAデータへの有効な要求は0件でしたが、非DNAデータでは法的要求に応じた実績があります。
こちらについても、CIAが秘密裏にDNAデータへアクセスしていたことを示す公開資料は確認できません。
「Nordics」の話には独立して確認できる証拠がない
報道されているBuchananの証言は、さらに「Nordics」と呼ばれる存在へ進みます。
Jorjaniの説明によると、Buchananはダイナーで3人の人物から声をかけられ、彼らは自分たちを地球外から来た存在だと説明したとされています。
背が高く、金髪で青い目をしており、コロラド州の山間部でスカンジナビア系住民を装って生活している。
地球人との間に子孫を残しており、その家族がCIAに発見されるのを避けるため、Buchananへ協力を求めた――複数の報道はJorjaniの話をこのように伝えています。
この部分について報道で示されているのは証言です。
人物の身元、DNA試料、公的記録など、Nordicsと呼ばれる地球外生命体の存在を独立して検証できる資料は提示されていません。
「米政府がリモートビューイングを研究していた」という公文書で確認できる事実と、「コロラド州に地球外由来の存在が暮らしている」という証言では、証拠の性質が異なります。
「エイリアンDNA」を扱う研究文書は実在する
報道では、遺伝学者Max Myakishev-Rempelによる研究も取り上げられています。
研究文書そのものは実在します。
2025年5月30日に公開された「Preliminary Evidence of Traces of Alien Genetic Manipulation in Humans」では、1000 Genomes Projectに含まれる581家族のDNAを分析しています。
著者は、染色体3の77Mbを調べ、11家族で親のどちらにも一致しないと判定した大きなDNA領域を検出したと報告しています。
最大の例では、2つの領域を合わせて348個のnonparental variantが検出されたとしています。
論文自身はタイトルに「Preliminary」と掲げています。
本文では、著者はこうした変化について「既知の生物学的機構や技術的誤りでは説明できない」と主張し、地球外生命体による遺伝子操作の可能性へ踏み込んでいます。
ResearchGateの掲載ページには現在、「Preprints and early-stage research may not have been peer reviewed yet」と表示されています。同じ研究はviXraにも掲載され、viXra上では2025年5月30日投稿の「viXra:2505.0194」として確認できます。
Myakishev-Rempelは、このテーマだけを扱っている人物でもありません。
2025年12月には、トランスポゾンとクロマチン構造を扱った「Homotypic Transposable Element Pairing May Drive Coherent Chromatin Folding」が学術誌Genesに掲載され、PubMedにも収録されています。
この研究だけでは「エイリアンDNA発見」にはならない
Myakishev-Rempelの研究が実際に報告しているのは、親から通常の形で受け継いだものとして説明できないと著者が判定した遺伝的変異です。
著者自身は、既知の生物学的機構や技術的誤りでは説明できないと主張しています。
その主張が妥当かどうかは、独立した検証が必要です。
ゲノム解析では、シーケンスやジェノタイピングの誤差、サンプル品質、親子情報、構造変異、マッピング、解析パイプラインなどが結果へ影響します。
地球外生命体由来と結論づけるには、それら既知の原因では説明できないことに加え、候補配列そのものの由来を示し、独立した研究グループが結果を再現する必要があります。
今回確認した公開情報からは、その段階まで検証されたことは確認できませんでした。
したがって、「エイリアンDNAを発見した研究がある」と表現すると内容を強く言いすぎます。
「エイリアンによる遺伝子操作の可能性を主張する予備的研究が公開されている」までが、現在確認できる範囲です。
本物の事実が未確認の主張と同じ話の中に並んでいる
この話には、資料で確認できる事実がいくつも含まれています。
米政府はリモートビューイングを研究していました。Buchananには米陸軍のリモートビューイング部隊への所属歴があります。Christopher C. “Kit” GreenにはCIA勤務歴を示す経歴資料があります。Myakishev-Rempelによる研究文書も実在します。
一方、
CIAが23andMeやAncestryへ秘密のバックドアを設け、地球外生命体由来のDNAを持つ人物を探している
という中心的な主張を直接裏付ける公開資料は、今回確認できませんでした。
周辺の事実が正しいことは、それらをつないだ主張まで正しいことを保証しません。
怪しい情報を検証するとき、「話全体が正しいか、間違っているか」だけで判定すると、この区別が見えにくくなります。
誰が何を語ったのか。
その人物の経歴は確認できるのか。
中心となる主張を直接支える資料はあるのか。
周辺の事実だけが確認されているのか。
今回の話では、この順番で分けると証拠の境界がかなり明確になります。
CIAによる「エイリアンDNA捜索」は公開情報では確認できない
2026年9月24日時点で確認できる公開情報では、CIAが23andMeやAncestryを使って地球外生命体由来のDNAを持つ人間を探しているという活動は確認できませんでした。
一方、話の周囲にある事実には裏付けがあります。
米政府によるリモートビューイング研究は実在しました。
Lyn Buchananは米陸軍のリモートビューイング部隊に所属していました。
Christopher C. “Kit” GreenにはCIA勤務歴を示す経歴があります。
エイリアンによる遺伝子操作の可能性を主張する予備的研究も公開されています。
それらは、CIAによるDNA捜索という中心的な主張を直接証明する資料ではありません。
現段階では、実在する計画や人物と結びつけて語られているものの、CIAによるDNA捜索については公開情報による裏付けを確認できない主張として扱うのが、確認できた証拠に最も近い整理です。
よくある疑問
CIAは本当に超能力を研究していたのですか?
CIAは1972年夏から1977年までリモートビューイングを研究し、その後はDIAや米陸軍などが関与する計画へ移りました。
1990年代半ばに計画がCIAへ戻され、独立評価が行われましたが、情報活動へ利用するには結果が不安定で信頼性が足りないとして、CIAは計画を復活させませんでした。
23andMeは政府からDNAデータの要求を受けたことがありますか?
2026年4月30日更新の23andMe Research Instituteの透明性報告では、2015年以降に米国から累計13件のデータ要求を受け、17ユーザーまたはアカウントが対象となっています。
同じ報告では、提供したアカウントデータは0件です。
これは公開された通常の政府要求についての数字であり、秘密アクセスの不存在を証明するものではありません。
Ancestryは政府へ顧客情報を渡していますか?
2025年にはDNAデータへの有効な要求は0件でした。
DNA以外の顧客情報については有効な要求を9件受け、そのうち7件で情報を提供しています。
2025年12月31日時点で、国家安全保障法に基づく機密要求は受けたことがないとしています。
人間からエイリアンDNAが見つかった研究はあるのですか?
エイリアンによる遺伝子操作の可能性を主張する予備的研究はあります。
Max Myakishev-Rempelが2025年に公開した研究では、581家族のゲノムを分析し、親由来ではないと判定した遺伝的変異を報告しています。
著者は既知の生物学的機構や技術的誤りでは説明できないと主張していますが、地球外生命体由来であることが独立して確認されたわけではありません。ResearchGateでもpreprint/early-stage researchとして扱われています。
参考・参照元
- CIA「Ask Molly: Did CIA Really Study Psychic Powers?」
- CIA FOIA「GRILL FLAME Remote Viewing Session Report」
- CIA FOIA 人質事件関連のGRILL FLAME評価資料
CIA Electronic Reading Room - International Remote Viewing Association「CIA Star Gate Archives」
- New York Post「Whistleblower claims CIA used DNA data from Ancestry and 23andMe customers in search for aliens」
- VICE「A Whistleblower Claims the CIA Is Searching DNA Sites for Alien-Human Hybrids」
- 23andMe Research Institute「Trust Center / Transparency Report」
- Ancestry「Government & Law Enforcement Requests for Customer Data 2025」
- Max Myakishev-Rempel「Preliminary Evidence of Traces of Alien Genetic Manipulation in Humans」
- viXra「2505.0194」
viXra個別ページ - PubMed「Homotypic Transposable Element Pairing May Drive Coherent Chromatin Folding」
検証範囲について
本記事は2026年9月24日時点で確認できた公開情報に基づいています。
CIAによる秘密アクセスが「存在しない」と証明するものではなく、公開情報からその存在を裏付ける証拠を確認できなかった、という調査結果です。
Jason Reza Jorjaniが出演したAmerican Alchemyの該当音声は本記事では直接確認できておらず、発言部分はVICE、New York Postなどの報道をもとに記載しています。
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