自動運転車について、「人間より安全なのか」という議論はずっと続いてきました。
2026年7月、米国の道路安全研究機関IIHS(Insurance Institute for Highway Safety)が、この問いにかなり正面から答える研究を公表しました。
Waymoのレベル4自動運転車が完全無人で走行した約5000万マイルと、同じ都市・時期に人間が運転した約2220億マイルを比較したものです。
結果はかなり明確でした。
- 警察への届け出相当事故への関与率:人間より68%低い
- 負傷事故:81%少ない
- 単独事故:85%少ない
- Waymoが前方車へ追突する事故:91%少ない
では、「自動運転はもう人間より安全」と結論づけてよいのでしょうか。
今回の研究から言えるのは、対象となった都市・期間・運行条件におけるWaymoのレベル4無人運転について、人間より低い事故関与率を示すかなり具体的な証拠が得られた、というところまでです。
すべての自動運転車に当てはまる結果ではありません。
市販車に搭載されているレベル2の運転支援について示した研究でもありません。
そして、68%という数字を理解するには、自動運転車と人間では「事故の記録方法そのものが違う」という問題から見ていく必要があります。
IIHS研究の結論|Waymoは人間より事故率が低かった
IIHSが2026年7月に公表した研究は、「Rise of the machines: crash experiences of highly automated vehicles and human drivers」です。
対象になったのはSAEレベル4の高度自動運転車です。
レベル4では、あらかじめ定められた運行条件や地域の範囲内であれば、人間が常に監視していなくてもシステムが運転を担当します。
今回、人間との事故率まで比較できたのはWaymoでした。
Waymoが完全無人運転時の走行距離、VMT(Vehicle Miles Traveled)を公開していたためです。
研究対象となった都市は、
- フェニックス
- サンフランシスコ
- ロサンゼルス
- オースティン
です。
Waymoの完全無人運転は約5000万マイル。
比較対象となった同じ地域・時期の人間による運転は約2220億マイルでした。
その結果、走行距離あたりの警察への届け出相当事故への関与率は、Waymoの方が人間より68%低くなりました。
負傷事故についても81%低い結果でした。
そもそも自動運転車と人間の事故率を公平に比べるのが難しい
今回の研究で重要なのは、68%という数字だけではありません。
研究者が、比較できる数字を作るためにかなり面倒な作業をしている点です。
自動運転車と人間では、事故の報告方法が違います。
米国ではNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)のStanding General Order、通称SGOによって、自動運転システムなどが関係する一定の事故をメーカーや運行事業者が報告します。
しかし、人間が運転している車では事情が違います。
軽い接触事故なら警察へ届けない人もいます。
州によって報告基準も異なります。
IIHSによれば、人間が起こす事故のおよそ半分、負傷事故でも約3分の1は警察へ報告されていないと推定されています。
一方、自動運転車は規制上、かなり軽微な事故まで報告されてきました。
たとえばIIHSは、駐車場へ入るときに車体下部を擦ったようなケースまで、自動運転車側では事故として記録され得たと説明しています。
つまり、
「企業が報告した自動運転車の事故件数」
と、
「警察に残っている人間の事故件数」
をそのまま比較すると、自動運転車側だけ事故が多く記録される可能性があります。
736件の事故を研究者が一件ずつ読み直した
そこでIIHSは、2021年7月から2024年12月までにNHTSAへ報告されたWaymo、Cruise、Zooxなどの事故データを整理しました。
まず、
- 重複した報告
- 自動運転システムが作動していなかった事故
- 公道上ではなかった事故
- 実際には衝突事故とみなせないケース
などを除外しました。
この段階で、報告されていた事故のおよそ4分の1が取り除かれました。
そのうえで、自動運転システムが作動している状態で公道上に発生した736件について、研究者が事故報告の文章を読みました。
判断したのは、
「同じ事故を普通の人間ドライバーが経験した場合、警察へ届ける可能性が高かったか」
です。
衝突の程度、物損、負傷内容、エアバッグの展開などを材料に分類しました。
その結果、736件のうち警察への届け出相当と判断されたのは22%でした。
内訳は、
- Waymo:89件
- Cruise:50件
- Zoox:10件
- その他:10件
です。
Waymoの事故は89件なのか、64件なのか
ここは数字が混乱しやすいところです。
IIHSが警察への届け出相当と判断したWaymoの事故は89件でした。
ただし、その89件すべてが「完全無人運転」だったわけではありません。
完全な無人運転中に発生したものは64件です。
残りは、人間の監視員が同乗して自動運転システムを利用していたときの事故でした。
そして約5000万マイルという走行距離は、Waymoの完全無人運転時のものです。
そのため、人間との事故率を比べる場合には、無人運転時の事故と無人走行距離を対応させています。
「Waymoで警察への届け出相当事故が89件あった」と、「無人走行約5000万マイルで人間より68%低かった」は別の集計です。
約5000万マイルで事故関与率は人間より68%低かった
事故率を比較するには、事故件数だけでなく走行距離という分母が必要です。
100件事故を起こしたとしても、100万マイル走って100件なのか、1億マイル走って100件なのかでは意味がまったく違います。
Waymoは無人運転時の走行距離を自主的に公開していたため、IIHSは事故件数を走行距離で割った比較ができました。
その結果、1マイルあたりの警察への届け出相当事故への関与率は、人間より68%低くなりました。
事故の種類では、
- 単独事故:85%少ない
- 負傷事故:81%少ない
- Waymoが前方車へ追突する事故:91%少ない
- Waymoが後方から追突される事故:40%少ない
という結果も出ています。
「自動運転車が慎重に走りすぎるため、後ろの車から追突されるのではないか」という見方もあります。
少なくとも今回の研究では、後方から追突される率も人間運転より低くなっています。
都市別では結果がかなり違う
68%という平均値だけを見ると、Waymoならどこを走っても同じように事故が減るように感じます。
実際には、都市別の結果にはかなり差があります。
- フェニックス:76%低い
- ロサンゼルス:71%低い
- サンフランシスコ:35%低い
- オースティン:4%高い
オースティンだけを見ると、Waymoの事故関与率は人間より4%高くなっています。
ただしIIHSは、オースティンのサンプルが小さいことを明記しています。
この4%だけを取り出して「オースティンではWaymoの方が危険」と結論づけるのは早すぎます。
同時に、都市差そのものを無視することもできません。
道路構造、交通量、歩行者、自転車、交差点、速度、時間帯、そしてWaymoが実際に運行する区域は都市ごとに違います。
自動運転の安全性では、単純な総走行距離だけでなく、「どこを、いつ走ったのか」も重要になります。
「Waymoは68%安全」という意味ではない
ここは今回の研究で最も誤解しやすい部分です。
IIHSが示したのは、
対象地域・期間におけるWaymoのレベル4完全無人運転車について、走行距離あたりの警察への届け出相当事故への関与率が、人間より68%低かった
という結果です。
「Waymoは68%安全」という総合安全スコアが存在するわけではありません。
まして、
「すべての自動運転車が人間より68%安全」
という意味でもありません。
市販車のレベル2運転支援とは別の話
今回の研究対象はWaymoのSAEレベル4です。
レベル4では、決められた運行領域や条件内であれば、人間が運転を監視し続ける必要はありません。
一方、市販車で広く使われているレベル2の部分自動化では、人間が常に運転を監視する必要があります。
IIHSが例に挙げているGM Super CruiseやFord BlueCruiseなどもこちらです。
IIHSは部分自動化について、衝突回避機能そのものには安全効果がある一方、レベル2の自動化機能全体として追加の安全効果があるかは明確ではないとしています。
ドライバーがシステムを過信したり、単調な監視作業によって注意力が下がったりする問題があるためです。
今回のWaymoの結果を、そのまま一般の乗用車に搭載された運転支援機能へ当てはめることはできません。
Waymo自身の最新データでは、さらに大きな差が出ている
IIHS研究とは別に、Waymo自身も安全性データを公開しています。
2026年6月に発表された分析では、2026年3月末までの完全無人走行距離は2億2000万マイルを超えています。
Waymoによれば、同じ地域の人間運転ベンチマークと比べて、
- 死亡または重傷につながる事故:94%少ない
- エアバッグが展開する事故:82%少ない
- 何らかの負傷が報告された事故:82%少ない
- 歩行者の負傷事故:93%少ない
という結果でした。
ただし、これはWaymo自身による分析です。
IIHS研究とはデータセットも評価方法も異なるため、「68%から94%へ改善した」といった比較はできません。
それでも、Waymo自身の分析だけでなく、独立した研究機関であるIIHSからも同じ方向の結果が出たことには意味があります。
なぜWaymoしか人間と比較できなかったのか
今回の研究では、CruiseやZooxの事故も分析されています。
それでも、人間との事故率まで計算できたのはWaymoだけでした。
理由は単純です。
事故率を計算するには、
「何件事故があったか」
だけではなく、
「その間に何マイル走ったか」
が必要だからです。
NHTSAは事業者へ事故報告を求めていますが、総走行距離や、そのうちどれだけが完全無人運転だったかを同じ形式で報告させているわけではありません。
Waymoは走行距離を自主的に公開していたため、比較が可能でした。
IIHSは今後、自動運転フリートに月ごとの走行距離などを報告させる仕組みが必要だとしています。
自動運転の安全性を判断するには、車両が走行データをどのように記録し、どこまで外部へ提供できるのかも重要になります。
現在の自動車が位置情報や速度、走行距離、急加速・急ブレーキなど、どのような情報を記録しているのかについては、あなたの車は何を記録しているのか―走行データは誰のもとへ行く?で詳しく整理しています。
安全性を測るためのデータ制度は、まだ発展途上
今回のIIHS研究では、事故報告を研究者が一件ずつ読み、警察への届け出相当かどうかを人間の目で判定しています。
数百件なら可能です。
しかし、自動運転車が数十万台、数百万台へ増えた場合、同じ方法を続けるのは現実的ではありません。
IIHSも今回の研究で、現在のデータ収集制度では自動運転車が大規模に普及した後の安全性を継続監視するには不十分だと指摘しています。
自動運転システムの性能だけでなく、
- 事故件数
- 走行距離
- 無人運転だったのか
- 事故の深刻度
- 運行地域や時間帯
を継続して比較できるデータ基盤も必要になります。
これは「自動運転が安全か」という技術問題であると同時に、安全性をどう測るのかという制度設計の問題でもあります。
自動運転車ではサイバーセキュリティも安全性の一部になる
今回のIIHS研究が扱っているのは、主に実走行中の衝突事故です。
ただし、自動運転車はセンサー、通信、クラウド、ソフトウェア更新などに依存したコネクテッドシステムでもあります。
そのため、将来的な安全性を考えると、衝突回避能力だけでなくサイバーセキュリティも無視できません。
車両のクラウド機能や遠隔操作、Bluetooth、車内マイクなどを含むコネクテッドカーの攻撃経路については、ドア解錠から車内マイクまで――BYD、Tesla、Toyotaに見る自動車セキュリティの現在で整理しています。
自動運転は本当に人間より安全になったのか
今回のIIHS研究に限れば、答えはかなり前向きです。
Waymoのレベル4完全無人運転については、人間より低い事故関与率を示す具体的な実走行データが出ています。
約5000万マイルの無人走行で、警察への届け出相当事故への関与率は人間より68%低く、負傷事故も81%少なかった。
これはシミュレーション上の予測ではありません。
実際の道路を走った結果を、IIHSが人間側の事故データと比較したものです。
ただし、研究対象はWaymoです。
都市もフェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティンに限られています。
都市別では結果にばらつきがあります。
さらに、レベル2の運転支援や他社のレベル4システムまで安全だと示した研究ではありません。
したがって現時点で最も正確な言い方は、
「限定された条件で運用されているWaymoのレベル4無人運転について、人間より事故への関与率が低いことを示す証拠がかなり強くなってきた」
でしょう。
長年「自動運転はいつか人間より安全になる」と語られてきました。
少なくとも一部のレベル4ロボタクシーについては、その話が未来予測ではなく、実走行データで検証できる段階へ入り始めています。
次に重要なのは、その結果がほかの都市でも続くのか。
ほかの企業でも再現されるのか。
そして、数千万マイルから数十億マイルへ規模が拡大しても、安全性が維持されるのかです。
よくある質問
Waymoは人間より68%安全という意味ですか?
違います。IIHSが示した68%は安全性全体のスコアではありません。対象地域と期間において、Waymoの完全無人運転車が「警察への届け出相当事故」に関与する率が、走行距離あたりで人間より68%低かったという意味です。
市販車のレベル2運転支援も人間より安全なのですか?
今回の研究からは判断できません。研究対象は、人間の継続的な監視を必要としないWaymoのSAEレベル4自動運転です。Super CruiseやBlueCruiseなどのレベル2では、ドライバーが常に監視する必要があります。
Waymoの事故は89件なのですか、64件なのですか?
どちらも正しい数字ですが、意味が異なります。警察への届け出相当と判断されたWaymoの事故は89件で、そのうち完全無人運転中に発生したものが64件です。約5000万マイルとの比較では完全無人運転を対象としています。
オースティンではWaymoの方が危険なのですか?
都市別集計ではWaymoの事故関与率が人間より4%高い結果でした。ただしIIHSはオースティンのサンプルが小さいことを明記しています。この数字だけでWaymoの方が危険だと判断することはできません。
なぜWaymoしか人間と比較できなかったのですか?
事故率を計算するには事故件数だけでなく走行距離が必要です。IIHSによれば、比較に使える完全無人運転時の走行距離データを自主公開していたWaymoについて、人間との事故率比較が可能でした。
参考・参照元
- Insurance Institute for Highway Safety「Rise of the machines: crash experiences of highly automated vehicles and human drivers」
- Insurance Institute for Highway Safety「Waymo’s driverless cars crash less often than people」
- Insurance Institute for Highway Safety「Advanced driver assistance」
- NHTSA「Standing General Order on Crash Reporting」
- Waymo「安全性への影響」
- Waymo「From the road — June 24, 2026」

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