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F1でソフトウェア障害 複数台の出力低下から共通ECUの歴史をたどる

2026年10月4日、バーレーンGPの代替としてマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで開催されたBahrain Grand Prix in Malaysiaで、複数のF1マシンがフォーメーションラップ中に出力を失いました。FIA側でソフトウェアを更新し、各チームが車へ適用してからスタート手順が再開されています。

F1マシンがソフトウェアの不具合で走れなくなるほど電子制御に頼るようになったのは、最近のことではありません。1990年代にはすでに電子制御が性能競争の中心に入り、その後FIAは、禁止、解禁、共通化、独自ソフトの認可という形で管理方法を変えてきました。

目次

2026年10月のF1で起きたソフトウェア障害

セパンでは雨の中でフォーメーションラップが始まったものの、Max Verstappenが出力低下に見舞われ、その後Lewis Hamiltonも出力を失いました。Hamiltonはレース後のFIA公式会見で、全体で出力を失い、とくに自分の車は出力が戻らなかったため、コース上で停止して再起動したと説明しています。

FIAシングルシーター部門のNikolas TombazisはMotorsport.comに対し、問題が起きたのはFIAが供給し、チームと複数年にわたって開発してきたソフトウェアだと説明しました。極端な低速状態に入った一部の車で、失われた出力を再び投入できなくなるバグが発生したとしています。

FIAはレース後、低いエンジン回転数、低グリップ、雨天用のエネルギー管理設定、セパンのコースを区切った区間(セクター)の構成が重なったと説明しました。FIA技術部門は、影響を受けたセクターのエネルギー制限を解除する更新ソフトを全チームへ配布しています。ただし、これはレース直後の説明で、FIAはチームとパワーユニットメーカーを交えた詳しい調査を行うとしています。

1990年代のF1を変えた電子制御

1993年のWilliams FW15Cは、当時の電子制御技術を代表するF1マシンです。F1公式によると、車高を自動調整するアクティブサスペンション、タイヤの空転を抑えるトラクションコントロール、ABSを備え、ドライバーは手動変速と自動変速を選択できました。

アクティブサスペンションでは、センサーで車体の状態を測り、コンピュータが油圧装置を制御して車体姿勢を調整します。当時WilliamsのシステムエンジニアだったPaddy Loweは、このシステムを動かすソフトウェアの大部分を書き、開発していました。

機械部品だけでなく、センサーから得た情報をどう処理して車を動かすかまでが性能競争の対象になった一方、電子制御がドライバーの操作を補助する範囲も広がりました。FIAは1994年シーズンから、アクティブサスペンション、トラクションコントロール、ABSなど多くのドライバー補助機能を禁止します。

1994年の電子制御禁止とBenettonのOption 13

1994年のサンマリノGP後、FIAはBenettonの電子制御ソフトを調べ、外部のソフトウェア解析会社LDRAがコードを解析しました。その結果、スタート時のクラッチ、変速、エンジン回転数などを自動制御する「ローンチコントロール(launch control)」がソフトウェア内に残っていることが分かりました。

FIAの当時の発表によると、Benettonはこの機能を有効にするにはソースコードを再コンパイルする必要があると説明していました。しかしLDRAは、ノートパソコンをギアボックス制御装置へ接続すれば、数秒で有効にできることを確認しています。

操作画面には10個のメニュー項目しか表示されていませんでしたが、10番目より下へスクロールすると、画面には見えていない「Option 13」に移動できました。そこからローンチコントロールを有効にでき、FIAはこの構成について納得できる説明が得られなかったとしています。

ただし、ソフトウェア内に機能が存在したことと、レースで使用したことは別です。FIAは入手した証拠から、BenettonがサンマリノGPでローンチコントロールを使ったとは認定しませんでした。

Option 13は、不正使用が確定した事件というより、規則で禁止した機能がソフトウェアの中に存在するかどうかを、FIAがコードまで調べる必要が生じた事例です。

2001年に再び認められた電子制御

1994年シーズンから禁止されていたトラクションコントロールは、2001年のスペインGPから再び認められました。当時のAutosportは、禁止した機能を十分に取り締まれるのかという問題が続き、違法に使用しているチームがあるのではないかとの疑いも出ていたと報じています。

2001年にはトラクションコントロールだけでなく、ローンチコントロールと全自動変速も認められました。1994年にOption 13から見つかったローンチコントロールと同じ種類の機能が、7年後に合法になりました。ローンチコントロールと全自動変速は2004年から再び禁止されています。

ただし、電子制御全般が自由になったわけではありません。Autosportの当時の記事では、電子制御によるトルク配分を行うディファレンシャルやブレーキ制御などは、2001年の時点では引き続き禁止対象とされています。

2008年のStandard ECU導入

2008年から全F1マシンに導入されたのが、標準電子制御ユニット(Standard ECU)です。ECUはElectronic Control Unitの略で、センサーから信号を受け取り、制御ソフトに従ってエンジンやギアボックスなどへ指令を出すコンピュータを指します。

FIAが導入前に公開した要求仕様には、Standard ECUの目的として、レースコストの削減、トラクションコントロールなどのドライバー補助機能の排除、FIAによるエンジン使用状況とテスト走行距離の確認が明記されています。エンジン、ギアボックス、クラッチ、ディファレンシャルをStandard ECUで制御する構成も要求されました。

2008年のF1 Technical Regulationsでは、駆動輪の空転を防ぐシステムや、ドライバーの過大なアクセル要求を自動で補正するシステムが禁止されています。2001年に再解禁されたトラクションコントロールは、Standard ECUの導入と同じ2008年シーズンから再び使用できなくなりました。

2008~2010年のStandard ECUと関連ソフトウェアの供給契約は、McLaren Electronic SystemsとMicrosoftによる共同提案が獲得しました。Microsoftの発表では、McLaren Electronic Systemsがシステムを開発・製造し、全F1チームへ供給するとされています。

共通ECUを使うことと、すべてのチームがまったく同じソフトウェアで走ることは同じではありません。

2014年のハイブリッド化で変わったソフトウェア開発

2014年以前のF1にも電動化はあり、ブレーキ時の運動エネルギーを回収して加速時に使うKERSは2009年に導入され、2011~2013年にも使用されています。2014年には1.6リッターV6ターボに、運動エネルギーと排気エネルギーを回収するシステムを組み合わせ、ハイブリッド機構がパワーユニットの設計そのものに組み込まれました。

ソフトウェアの扱いも変わります。FIAソフトウェア分析チーム責任者のAlan Prudomによると、2013年までのF1では、エンジン、ギアボックス、ディファレンシャル、クラッチなどを管理する制御コードの大部分が標準化されており、チーム側が変更できる範囲は限られていました。

2014年からは同じStandard ECUを使いながら、FIAが用意した一部の領域でチームが独自コードを書けるようになりました。主な用途は、回収したエネルギーの管理や、内燃エンジン、バッテリー、モーターの出力配分です。

一方、ギアボックスやクラッチ、ディファレンシャルなど車体側の多くは引き続き標準ソフトで管理され、チームが設定値を変更できてもコード自体は変更できない領域が残りました。

2026年のF1ソフトウェアはどこまで共通なのか

2026年規則でも、FIA Standard ECUはF1の電子制御の中心にあります。Technical Regulationsでは、パワーユニット、燃料系、トランスミッション、ブレーキ、タイヤ空気圧監視、可変ボディワークと、それらに関係する作動装置をFIA Standard ECUで制御すると定めています。

FIAはシーズン開始前に車載の電気・電子システムとハードウェア、ソフトウェアを検査します。使用する車載ソフトウェアのバージョンは事前にFIAへ登録する必要があり、チームが制御に使う独自ソフトもFIAが認可したものに限られます。

アクセルペダルを含むドライバーの入力装置もStandard ECUへ接続されます。規則では、アクセルペダルの入力から対応する出力要求が実現するまでの遅延を最大50ミリ秒とし、パワーユニットにはFIA標準ソフトが要求するトルクを実現することを求めています。

FIAは走行データにもアクセスします。車検を支援するため、Standard ECUの設定値、記録されたデータやイベント、リアルタイムのテレメトリについて、走行前・走行中・走行後を通してFIAがアクセスできることが規則に定められています。

セパンで不具合が起きたのは、このうちFIAが供給する側のソフトウェアでした。

時代確認できる変化
1993年Williams FW15Cがアクティブサスペンション、トラクションコントロール、ABS、自動変速などを使用
1994年多くのドライバー補助機能を禁止。Benettonの調査では外部会社がソフトウェアを解析
2001年トラクションコントロール、ローンチコントロール、全自動変速を認める
2008年Standard ECUを全車に導入し、トラクションコントロールを再禁止
2014年Standard ECU内の一部でチーム独自コードを認め、主にエネルギー管理へ利用
2026年共通ECUを維持し、独自制御ソフトをFIA認可制に。ソフトのバージョン登録と走行データへのアクセスも規則化

FAQ

共通ECUなら、全F1チームのソフトウェアも同じですか?

同じではありません。全車がFIA Standard ECUという共通の制御コンピュータを使いますが、標準ソフトに加えて、規則で認められた領域ではFIAが認可した独自の制御ソフトも使われています。

F1チームは自由にソフトウェアを開発できますか?

規則で認められた領域では独自ソフトを開発できますが、自由に車へ載せられるわけではありません。使用する車載ソフトのバージョンはFIAへの登録が必要で、制御用の独自ソフトはFIAの認可を受ける必要があります。

FIAはF1のソフトウェアをどう監視していますか?

FIAはシーズン前に車載の電子システムとソフトウェアを検査し、使用するソフトのバージョンを管理します。走行時にはStandard ECUの設定、記録データ、イベント、リアルタイムのテレメトリにもアクセスできます。

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
専門的な話でも、詳しい人だけのものにしないこと。分からないことは分からないままにせず、元の資料まで確認すること。
そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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