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Flockカメラ内部解析でわかったAI監視システムの仕組みと限界

2026年9月、WIREDと404 Mediaは、米Flock Safetyの道路監視カメラから取得されたソフトウェア、ログ、動画などを共同解析した結果を公開しました。

データを入手したのはFlock自身でも、同社から依頼を受けたセキュリティ監査会社でもありません。ハッカー集団「stegan0gram」が道路上に設置されていたFlockカメラを物理的に取り外し、内部ストレージの大部分をコピーして両メディアへ提供したものです。Flockは、カメラを無断で撤去・改変する行為は違法だとコメントしています。

解析された端末では、車が1台通過するたびに典型的には約28枚、多い場合には100枚を超える画像が生成されていました。復元された約21日分のログに記録されていた車両は約5万200台、生成された画像は約160万枚です。

道路脇に置かれているのは、ナンバープレートを1枚撮影して文字を読むだけの装置ではありません。

撮影、物体検出、画像選別、通信、クラウド上の認識処理、データベース検索までを組み合わせたシステムです。

目次

Flockカメラの内部では約20個のアプリが動いていた

WIREDと404 Mediaの解析によると、対象となったFlockカメラには中価格帯のスマートフォンに近いクラスのプロセッサが搭載され、Android系のシステム上で約20個のFlock製アプリが動作していました。

動きの検出、撮影、物体分類、データのアップロード、リモート更新などを、それぞれのソフトウェアが担当しています。

実装としては、カメラを搭載した小型のネットワークコンピュータに近い構成です。OSがあり、複数のアプリケーションが動き、AIモデルを実行し、携帯回線を通じてクラウドと通信します。

同じように、身近な機器が「本来の機能+OS+ネットワーク+データ処理」を持つ例として、LG製スマートTVのACRとデータ収集を調べた記事でも、テレビが単なる表示装置ではなくネットワークにつながったコンピューターとして動いている実態を取り上げています。

Flockカメラの端末ログにはストレージ不足などのエラーも大量に残されていました。映像を撮影する機能だけでなく、アプリ、OS、ストレージ、通信、ソフトウェア更新まで管理する必要があります。

監視カメラのセキュリティは、IoT機器やスマートフォンのセキュリティと重なる部分が多くなります。

車1台に平均28枚を撮影する理由

Flockカメラの前を車が通過すると、ソフトウェアは短時間に何枚もの静止画を撮影します。

典型的な通過車両では約28枚、一部では100枚以上。カメラ内に保存されていた1〜2秒程度の動画クリップとは別に、高解像度の静止画が連続して生成されていました。

道路上では、1枚だけ撮影する方式では識別に適した画像を確実に得られません。

走行中の車にはモーションブラーが発生します。夜間にはヘッドライトが強く光り、ナンバープレートそのものも光を反射します。逆光、天候、車速、カメラに対する車体の角度も一定ではありません。

Flockのカメラは異なる露出で画像を取得し、ナンバープレートと車両全体の双方を捉えます。その後、撮影した画像を走査し、利用できるフレームを選び、必要な領域を切り出してサーバーへ送ります。

処理の流れは、最初から完璧な1枚だけを狙う設計よりも、候補を多めに取得してソフトウェアで絞り込む設計に近いものです。

スマートフォンの計算写真でも複数フレームを利用する処理は使われていますが、Flockの場合は写真をきれいに仕上げることではなく、後段の認識処理に使える情報を残すことが目的になります。

物体検出AIは車以外も認識できた

カメラから抽出されたコンピュータビジョンのモデルには、車両やナンバープレートだけでなく、人、自転車などを検出する機能も含まれていました。

物体検出(Object Detection)は、画像全体へ一つのラベルを付ける画像分類とは処理が異なります。

画像のどの位置に物体があるのかを矩形で示し、それが車、人、ナンバープレートなどのどのクラスに属する可能性が高いかを推定します。

矩形領域はBounding Box、判定の確からしさを示す値はConfidence Scoreと呼ばれます。

人物を検出できるモデルが搭載されていたからといって、今回のカメラが大量の歩行者を記録していたわけではありません。

WIREDは抽出したモデルを27,321本の動画クリップに適用しましたが、人が検出されたのは11本だけでした。しかも11本すべてで、人物はオートバイに乗っています。

カメラが道路上に設置され、通過する車両を上から見下ろす方向へ向けられていたため、そもそも歩行者が画角に入りにくかったことが少ない検出数の理由として挙げられています。

Flockの現在のTrust Centerも、ALPRが顔認識データ、生体データ、ドライバー情報を収集しないと説明しています。また、ALPRシステムでは顔認識を使用しないと明記しています。

WIREDと404 Mediaの解析でも、Androidに標準で含まれる関連機能を除き、Flock独自の顔認識システムがこのカメラで動作していた証拠は確認されていません。

人物検出と顔認識は別の処理です。

Person Detectionは、人らしい物体が画像内にある場所を探します。Face Detectionでは顔の位置を検出し、Face Recognitionまで進むと、検出した顔を登録済みデータなどと照合して人物の識別を試みます。

今回の解析で確認されたのは、人そのものを物体として検出する機能です。

星条旗をナンバープレートと判定したAI

物体検出モデルは必ず正しい結果を返すわけではありません。

WIREDの検証では、バンパーステッカーや販売店のプレートフレームなど、ナンバープレートではないものがプレート候補として切り出されるケースが確認されました。

ある動画では、オートバイのサドルバッグに付いていた米国旗のパッチをナンバープレートとして検出しています。

これはFalse Positive、つまり対象ではないものを対象だと判定する誤検出です。

物体検出モデルは「政府が発行した正式なナンバープレートである」という行政上の意味を理解して判定するわけではありません。学習した画像上の特徴を基に、それらしい領域へスコアを付けます。

形状、輪郭、文字らしい模様などが学習したパターンに近ければ、ナンバープレートではない画像にも一定のConfidence Scoreが付く場合があります。

どのスコア以上を検出結果として採用するかを決めるのがThresholdです。

Thresholdを高くすると誤検出を減らしやすくなりますが、本物のナンバープレートを見逃すFalse Negativeが増える可能性があります。逆に低くすれば見逃しを減らせる一方、誤検出を拾いやすくなります。

認識精度はAIモデルだけでは決まりません。撮影条件、カメラの設置角度、解像度、Threshold、後段の処理を含めたシステム全体で決まります。

エッジ側ではナンバーの文字まで読んでいない

今回解析されたカメラでは、処理のすべてが道路脇の端末内で完結しているわけではありませんでした。

カメラ側では、動きの検知、連続撮影、物体検出、画像選別、クロップなどを実行します。

一方、WIREDと404 Mediaがコードを調査した範囲では、カメラ自体がナンバープレートの文字列を読み取ったり、車両のメーカー、モデル、色を最終的に識別したりしている形跡は確認できませんでした。これらの処理はFlockのサーバー側で行われているとみられます。

端末とクラウドへ処理を分ける設計は、Edge Computingで広く使われます。

撮影地点で不要な画像を除外し、送信対象を絞れば通信量を抑えられます。反対に、OCRや車種判定のような処理をクラウド側へ置けば、端末へ高い計算能力を持たせなくてもサーバー側のモデルを更新できます。

大量のカメラから届いたデータをまとめて検索する処理も、サーバー側へ置くほうが扱いやすくなります。

ただし、処理を端末へ寄せれば常に優れているわけでも、クラウドへ寄せれば効率的になるわけでもありません。

通信量、レイテンシー、消費電力、端末価格、モデル更新、障害時の動作、プライバシー要件などによって適切な配置は変わります。

Flockカメラは、その中間にあります。

暗号化されていた画像を取り出せた理由

今回の解析では、端末内部に保存されていたデータの一部をハッカー側が復号しています。

これは暗号アルゴリズムそのものを解読したという話ではありません。

解析者はAndroidシステムへアクセスし、端末内の複数のパーティションを調査しました。その中には暗号化されていない領域もあり、「media」パーティションから取得した暗号鍵を利用して、別の領域に保存されていた一部の動画や静止画を復号できたとしています。

端末内の機密性が高いストレージの多くは暗号化されたままで、WIREDと404 Mediaもアクセスできませんでした。

暗号化では、使用する暗号方式と同じくらい、鍵をどこに置き、どう守るかが関係します。

強い暗号方式を採用していても、端末を物理的に入手した攻撃者が暗号鍵まで読み出せるなら、鍵で保護されたデータの一部を復号される可能性があります。

スマートフォンやIoT機器では、こうしたリスクを下げるため、鍵を通常のストレージへそのまま保存せず、Hardware-backed Key StorageやSecure Elementのようなハードウェア側の保護機能を利用する設計があります。

今回のデータだけから、Flock製品全体の鍵管理方式や現在販売されている全機種の実装まで判断することはできません。

確認されたのは、解析された端末について、端末内部から取得した鍵を利用して一部データを復号できたという事実です。

カメラ1台の先に検索ネットワークがある

FlockのALPRは、ナンバープレート画像だけを保存しているわけではありません。

Flock自身の説明では、ALPRが収集するデータとして、ナンバープレート画像、車両の特徴、日時、カメラ位置などを挙げています。

この形式になると、映像を人間が最初から見直さなくても条件検索が可能です。

特定のナンバー、車両の特徴、場所、時間などを組み合わせて対象車両を探せます。

さらにFlockでは、顧客となる警察機関などがデータを他組織と共有できる仕組みを提供しています。Flockは現在、共有するかどうかは各顧客が設定すると説明しています。

WIREDが2026年に調査したジョージア州Alpharettaでは、市のFlockデータへ2,000を超える外部組織がアクセスできる設定になっていました。一方、Alpharetta側も1,300以上の組織からデータを受け取れる状態だったと報じられています。

WIREDはこのほか、地方警察によるICE関連の検索や、中絶を行った女性を探す目的でFlockネットワークが検索された事例なども報じています。

Flockは現在、検索をユーザーごとに記録し、検索理由もログに残すと説明しています。データ保持期間については「多くの地域で7日間」とし、地域の法律などによって異なるとしています。

この仕組みでは、カメラ1台の性能だけを見てもシステム全体で何ができるのかは分かりません。

同じナンバープレートについて、どの地点をいつ通ったかという記録を複数のカメラから検索できれば、個々の静止画は車両の移動を追跡するためのデータへ変わります。

日本にはNシステムがある

日本の警察も、自動車ナンバー自動読取システム、いわゆるNシステムを運用しています。

警察庁の2025年版警察白書では、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合するシステムとして説明されています。

開発の経緯は1980年代前半までさかのぼります。

1983年の警察白書では、通過車両のナンバーを自動的に読み取ってコンピュータで照合するシステムを「開発」している段階でした。1985年の白書でも、道路上のカメラと路側コンピュータを使った自動読取りシステムを開発中と記載されています。

1986年の警察白書には、1985年度に路上実験を行い、1986年度に配備開始予定とあります。翌1987年の白書では、1986年度から自動車ナンバー自動読取りシステムの整備を開始したと記録されています。

後年の警察白書でも、警察庁が1986年度から整備を進めていることが明記されています。

設置数について、一次資料で確認できる具体的な数字の一つが2015年6月16日の衆議院法務委員会です。

三浦正充・警察庁刑事局長は、2015年5月末時点で、警察庁が設置していたNシステムは1,511式、同じ仕様の装置を都道府県が179式設置していると答弁しました。

同じ答弁では、取得した通過車両データについて、手配車両の登録や照合、警報出力、データの保管・消去、安全管理などを定めた実施要領と活用要領を、警察庁から各都道府県警察へ発出していることも確認できます。

ただし、1,511式と179式は2015年5月末時点の数字です。2026年現在の設置台数を示すものではありません。

今回確認した警察庁などの公開資料からは、現在の総設置数、通過車両データの具体的な保存期間、どの範囲まで横断検索できるのかといった運用の詳細までは確認できませんでした。

そのため、日本のNシステムをFlockと同じ規模、同じ共有方式のネットワークとして扱うことはできません。

カメラで車両を捉え、ナンバーを自動的に読み取り、データと照合する技術要素には共通部分があります。運営主体、保存方法、共有範囲、検索機能、他システムとの連携は別々に確認する必要があります。

日本でも「映像」と「検索可能なデータ」は区別される

日本の個人情報保護委員会は、防犯カメラで撮影した映像について、検索方法によって扱いが変わり得ることを説明しています。

特定の個人を識別できる映像は個人情報に該当します。ただし、日時から検索できるだけで、特定の個人に関する映像を検索できるよう体系的に構成されていなければ、個人情報データベース等には該当しないとしています。

顔識別機能付きカメラでは条件が増えます。

顔特徴データを使って特定の人物を識別する場合、個人情報保護委員会は利用目的をできる限り特定するよう求めています。犯罪防止目的とだけ説明するのでは足りず、顔識別機能を使用していることまで明らかにし、利用目的を通知または公表する必要があるとしています。

FlockのALPRと、日本の顔識別カメラを同じ法制度として比較することはできません。

技術面では、映像を検索条件へ変換する処理に共通する部分があります。

録画した映像だけなら、必要な場面を探すために日時を絞ったり、人間が映像を確認したりする作業が必要です。

画像認識やOCRによって、ナンバー、車種、時刻、場所などを構造化すれば、それらの値を条件として検索できます。

Flockで行われているのも、カメラが得た画像から後段の検索に利用できる情報を生成する処理です。

AIカメラは検索システムの入口になる

Flockカメラの前を車が通過すると、端末は多数の画像を取得し、物体検出モデルで候補を探し、利用するフレームを選別します。

選ばれた情報は携帯回線を通じてクラウドへ送られ、サーバー側でナンバー文字列や車両特性などが解析され、時刻や位置と組み合わせて扱われます。

利用者が検索する段階では、何十枚もの生画像を一つずつ確認する必要はありません。

ナンバープレート、車両特性、時刻、位置などが検索条件になります。

監視カメラの性能を考える場合、解像度や夜間撮影性能だけでは、システム全体の能力を判断できなくなります。

端末側で何を検出するのか。クラウドへ何を送るのか。画像からどの属性を生成するのか。何日保存するのか。誰が検索でき、どの組織と共有できるのか。

Flockの実機解析で明らかになった平均約28枚の撮影、端末側の物体検出、クラウドとの処理分担、誤検出、暗号鍵の保管は、その処理の前半部分です。

その先には、画像から生成された情報を検索するデータベースがあります。

道路脇に立つ1台のカメラは、その検索システムへデータを送り込む入口になっています。

FAQ

Flockカメラは顔認識をしていたのでしょうか

今回解析されたカメラでは、人を検出する物体検出モデルは確認されました。一方、WIREDと404 Mediaは、Androidに標準で含まれる機能を除き、Flock独自の顔認識機能が有効に使われていた証拠を確認していません。

Flock自身も現在のALPRについて、顔認識を使用せず、顔認識データや生体データ、ドライバー情報を収集しないと説明しています。

人物も大量に撮影されていたのでしょうか

WIREDが27,321本の動画クリップへ抽出したモデルを適用したところ、人が検出されたのは11本でした。すべてオートバイに乗っていた人物です。

解析対象のカメラが道路上の車両を見下ろす位置に設置されており、歩行者が画角に入りにくかったことが少ない検出数の理由として挙げられています。

日本のNシステムはFlockと同じ仕組みですか

ナンバープレートを自動的に読み取り、データと照合する技術要素には共通部分があります。警察庁はNシステムを、通過車両のナンバーを読み取り、手配車両と照合するシステムと説明しています。

一方、2026年現在の総設置台数、具体的な保存期間、検索・共有範囲などは、今回確認した公開資料からはFlockと同じ粒度では把握できません。

2015年5月末時点では、警察庁設置が1,511式、同仕様の都道府県設置分が179式だったことが国会答弁で確認できますが、これは現在の設置数ではありません。

参考・参照元

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
専門的な話でも、詳しい人だけのものにしないこと。分からないことは分からないままにせず、元の資料まで確認すること。
そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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