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あなたの車は何を記録しているのか―走行データは誰のもとへ行く?

最近の車には、事故が起きたときに自動で通報したり、スマートフォンから車の状態を確認したり、ナビの地図をオンラインで更新したりする機能があります。

便利な機能ですが、その裏では車と外部のサーバーとの通信が行われています。

サービスによっては、車速や走行距離、車両状態に加えて、急加速や急ブレーキ、ハンドル操作、アクセル操作まで記録されます。

日本でも、走行データを保険会社へ提供して保険料の算定に利用するサービスがあります。日産は、個人を識別できないよう加工した一部の車両データについて、第三者への提供・販売を規約上明記しています。

いまの車は移動する機械であると同時に、大きなデータ端末にもなっています。

目次

そもそも、なぜ車がインターネットにつながっているのか

こうした車は一般に「コネクテッドカー」と呼ばれます。

少し聞き慣れない言葉ですが、特別な種類の車というより、通信機能を備えて外部のサービスとつながる車のことです。

たとえば、

  • 事故や急病時の緊急通報
  • 盗難時の位置確認
  • スマートフォンからのドアロック確認
  • 車両状態の診断
  • オンラインナビ
  • ソフトウェアや地図データの更新

といった機能があります。

トヨタの場合、T-ConnectやG-Linkの利用を開始すると、車載通信機からトヨタのサーバーへ車両データが送信されます。

トヨタが公開している説明では、取得するデータは大きく「走行状況」と「車両状態」に分けられています。

走行状況には車速、エンジン回転数、走行距離、位置情報などが含まれ、車両状態には警告灯の表示情報や診断情報などが含まれます。

車両そのものが通信端末になっています。

車はどこまで運転を記録しているのか

Hondaの「Honda コネクト保険」の利用規約を見ると、保険会社へ提供する対象として次のような情報が記載されています。

  • 車速
  • 前後方向・左右方向の加速度
  • 走行距離
  • 角速度
  • GPSの緯度・経度
  • アクセルペダル操作量
  • ステアリングの操舵角
  • エンジンまたはシステムをONにした時刻
  • 車台番号
  • 時刻

ここまで細かい情報が対象です。

Hondaの保険サービスでは、こうした走行データから急加速、急ブレーキ、急ハンドルなどを評価し、運転スコアを算出します。スコアが基準を超えると保険料の割引につながります。

なお、Hondaの説明では、スコアが低いことを理由として、この仕組みによって保険料が割り増しになることはありません。

車が記録できるのは移動先だけではなく、運転の癖まで含まれます。

位置情報は単なるGPSの点ではない

ある瞬間に「緯度35.xxx、経度139.xxxにいた」という情報だけなら、それほど意味がないようにも見えます。

ところが、それが毎日蓄積されれば性質が変わります。

朝にいつも出発する場所があれば自宅を推測できるかもしれません。同じ場所へ平日の昼間に繰り返し停車していれば、勤務先を推測できる可能性もあります。

病院、学校、宿泊施設などへの訪問履歴が重なれば、生活パターンの一部まで見えてくることがあります。

個人情報保護委員会も、ある個人の位置情報が連続的に蓄積され、特定の個人を識別できる場合には「個人情報」に該当し得ると説明しています。

位置情報は一つひとつの点よりも、蓄積されたときの意味のほうが大きくなります。

集められたデータはどこへ行くのか

基本的な流れは、

車
↓
車載通信機
↓
自動車メーカーなどのサーバー
↓
各種サービス

です。

メーカーのサーバーに集まった後、利用しているサービスに応じて保険会社、緊急通報サービス、販売会社、ロードサービスなどへ共有される場合があります。

トヨタは、あいおいニッセイ同和損保と共同開発した走行データ連動型自動車保険について、車速、減速度、位置情報などを利用し、保険料算出サービスに必要な情報を保険会社へ提供すると説明しています。

このサービスでは、申込時にユーザーの同意を得たうえで、必要な情報を提供するとされています。

Hondaも、Honda コネクト保険へ加入する場合、対象となる走行データを契約した保険会社へ提供することを規約で明記しています。

安全運転に応じて保険料が安くなる仕組みは、利用者にもメリットがあります。

自分の車から何が送られ、どの会社が利用するのかまで把握するには、利用規約や設定内容を確認する必要があります。

日本の主要メーカーではどうなっているのか

今回確認した4社の公開資料から、特徴的な部分を整理すると次のようになります。

メーカー今回確認できた主な取得・利用データ外部への提供・利用例
トヨタ位置情報、車速、走行距離、車両状態、診断情報など同意に基づく走行データ連動型保険など
Honda車速、GPS、加速度、アクセル操作量、操舵角などHonda コネクト保険の契約保険会社
日産位置情報、走行距離、燃費・電費、車両情報など匿名加工情報として第三者へ提供・販売
SUBARUGPS位置情報などコネクテッドサービスで利用。未加入でも位置情報を取得する場合あり

メーカーごとにサービス体系や規約の書き方が異なるため、ここでは今回確認できた特徴を並べています。

「第三者提供」も、保険会社への提供、緊急通報サービスへの提供、匿名加工したデータの提供では意味が異なります。

提供先と目的まで含めて見る必要があります。

日本でも車両データは第三者に提供・販売されている

NissanConnectの会員規約では、車両の位置、周辺画像、走行距離、燃費・電費などの走行情報が自動的に日産へ送信されると明記されています。

設定によって自動送信を停止できるものの、その場合はサービスの全部または一部が利用できなくなることがあります。

日産はさらに、個人を識別できず、元の個人情報を復元できないように加工した「匿名加工情報」を作成し、第三者へ提供・販売することも規約で公表しています。

公開されている対象項目には、

  • 車両の位置情報とその日時
  • 車種やボディタイプ
  • バッテリー容量
  • 充電時刻や充電量
  • 走行距離
  • 走行開始・終了時刻
  • 総走行距離

などがあります。

日産が提供・販売するとしているのは、個人を識別できないよう加工されたデータです。

個人情報保護法上の匿名加工情報は、特定の個人を識別できず、元の個人情報を復元できないよう加工した情報です。一定のルールに従えば、本人の同意を得ずに第三者へ提供できます。

個人情報保護委員会自身も、カーナビなどから取得した走行位置履歴を匿名加工し、渋滞予測などに活用する例を紹介しています。

「データを販売している」という表現だけを見ると、実際のデータの扱い方まで伝わりません。

このケースでは、匿名加工という条件まで含めて読む必要があります。

サービスに申し込まなくても位置情報を取得する車もある

SUBARUはMySubaru Connectについて、GPSによる位置情報を取得してサービスに利用すると説明しています。

ここは少し知っておいたほうがよさそうです。

SUBARUは、MySubaru Connectの利用申し込みをしていない場合でも、対象となるコネクテッドカーから位置情報を取得することがあると明記しています。

旧SUBARU STARLINKについても同様の説明があります。

取得した情報の利用目的や取扱いには、同社の規定が適用されます。

コネクテッドサービスを契約していなくても位置情報が送信される場合がある、という点は知っておく価値があります。

アメリカでは、この仕組みが大きな問題になった

車の走行データが注目されるきっかけの一つになったのが、米国General Motors(GM)とOnStarの問題です。

米連邦取引委員会(FTC)は、GMとOnStarが数百万台の車両から正確な位置情報や運転行動データを収集し、十分な通知や明確な同意なしに第三者へ販売していたと申し立てました。

収集対象には急ブレーキ、深夜走行、速度超過などが含まれ、一部ユーザーでは位置情報が最短3秒ごとに取得されていたとFTCは説明しています。

データは消費者報告機関にも提供され、保険会社による契約や保険料の判断に利用されました。

2026年1月、FTCはGMとOnStarに対する命令を最終決定しました。

GMには5年間、一定の位置情報・運転行動データを消費者報告機関へ提供することが禁止されています。

あわせて、

  • コネクテッドカーのデータを収集・利用・共有する前に原則として明示的な同意を得る
  • ユーザーが自分のデータを確認できるようにする
  • 一定のデータを削除できるようにする
  • 位置情報の収集を停止できる仕組みを用意する

といった対応も求められました。

2024年にはテキサス州司法長官もGMを提訴しています。同州は、150万人を超えるテキサス州民の運転データが、本人の十分な認識や同意なしに収集・販売されたと主張しました。

HondaやHyundaiについても、米国ではデータブローカーVeriskへの運転データ提供が議会調査で明らかになっています。

米上院議員Ron Wydenらの調査によると、Hondaは2020〜2024年に約9万7000台分、Hyundaiは2018〜2024年に約170万台分のデータをVeriskへ提供していました。

議員側は、ユーザーへの説明や同意の取り方に問題があったと指摘しています。

日本とアメリカをそのまま重ねることはできない

今回確認した日本国内の各社資料からは、米国のGM問題と同じ状況が起きているとは判断できません。

日本の保険連携サービスでは、データ利用や第三者提供について規約や同意の仕組みが確認できます。

Honda コネクト保険では、保険会社へ提供するデータの種類と利用目的が具体的に記載されています。

トヨタも、走行データ連動型保険について利用者の同意を得て、必要なデータを保険会社へ提供すると説明しています。

規約に書かれている内容を、利用者がどこまで具体的に理解できるかは別の論点です。

車を購入するときには、売買契約のほかにもナビ、スマートフォンアプリ、オンラインサービス、緊急通報、保険など複数の利用規約やプライバシーポリシーに触れます。

「位置情報を取得する」という説明と、「GPS座標や車速、アクセル操作量、操舵角まで送信される」という説明とでは、利用者が受ける印象が大きく変わります。

米国のGM問題でも、データを取得していた事実だけでなく、利用者がその内容を十分に理解し同意していたかが問題になりました。

データ利用には便利さもある

車両データには、事故時の緊急通報、盗難車の追跡、故障診断、安全運転支援、道路状況の把握、保険料の割引といった便利な使い道があります。

トヨタは走行データを利用した保険のほか、道路状況の把握などにも車両データを活用しています。

個人情報保護委員会も、匿名加工した走行位置履歴を渋滞予測などに活用することを、データ利活用の例として挙げています。

データを使うことで得られる便利さや安全性は確かにあります。

そのぶん、利用者が「何を渡して、何を受け取っているのか」を確認しやすい仕組みも必要になります。

自分の車について確認できること

車を持っているなら、メーカーのアプリや会員ページ、利用規約を一度見てみると、自分の車がどんな情報を扱っているか確認できます。

探すときは、

  • 位置情報
  • 車両情報
  • 走行情報
  • 第三者提供
  • 匿名加工情報
  • プライバシー
  • データ利用

といった言葉で規約内を検索すると見つけやすくなります。

コネクテッドサービスの設定画面に、位置情報やデータ送信に関する項目が用意されていることもあります。

車によってはデータ送信を停止できますが、その場合、一部の機能が利用できなくなることがあります。

NissanConnectも、自動送信を停止した場合にはサービスの全部または一部が使えなくなる可能性があるとしています。

便利さとデータ利用は深く結びついています。

現在の車では、運転中に生まれた情報の一部が車外へ送信されることがあります。

昨日何時に車を動かしたのか。どこを走ったのか。どんな速度やアクセル操作だったのか。

車種や契約しているサービスによって範囲は違いますが、その一部を車は記録し、外部へ送信しています。

車を選ぶとき、燃費や安全性能、ナビの使いやすさを見る人は多いでしょう。

これからは「この車は私のどんなデータを扱うのか」も、確認項目のひとつになっていきそうです。

FAQ

車に乗っているだけで位置情報はメーカーに送られるのでしょうか?

車種や利用しているサービスによって異なります。

たとえばトヨタはT-Connect/G-Link利用時に位置情報を含む車両データを取得すると説明しています。

一方SUBARUは、対象となるコネクテッドカーについて、サービスに申し込んでいない場合でも位置情報を取得することがあると明記しています。

日本でも運転データが保険料に使われていますか?

使われています。

トヨタやHondaなどには、車両から取得した走行データをもとに運転特性を評価し、保険料の割引などに利用する保険があります。

Hondaでは、急加速、急ブレーキ、急ハンドルなどから運転スコアを算出しています。

日本でも自動車メーカーが走行データを販売しているのでしょうか?

日産は、位置情報や走行実績などを個人が識別できず、元の情報を復元できない「匿名加工情報」にしたうえで、第三者へ提供・販売することを公表しています。

匿名加工情報は、一定の法的要件を満たせば本人の同意なしに第三者へ提供できます。

個人を特定できる走行履歴そのものの販売とは区別して考える必要があります。

アメリカで問題になったGMのケースと日本は同じですか?

今回確認した情報では、日本とGMのケースを同一には扱えません。

GMでは、FTCが「十分な通知や明示的同意なしに正確な位置情報や運転行動データを収集・販売した」と申し立て、2026年に最終命令が出ています。

今回確認した日本の保険連携サービスでは、データ利用や第三者提供について規約や同意手続きが設けられています。

参考・参照元

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この記事を書いた人

AI・IT・テクノロジーの話題を中心に、気になったニュースや研究を一次資料までたどって調べています。

新しい技術を「すごい」「怖い」で終わらせず、何が起きているのか、なぜ注目されているのか、どこまで分かっているのかを、できるだけ前提から整理して書いています。

AI、サイバーセキュリティ、プログラミング、ハードウェア、そして技術が社会に与える影響が主なテーマです。
専門的な話でも、詳しい人だけのものにしないこと。分からないことは分からないままにせず、元の資料まで確認すること。
そんな姿勢で「柩のノート」を更新しています。

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